※今回のオピニオンは天皇制のあり方という極めて重要なテーマのため、表現に誤解のないよう、やや長文になっていることをお許しください。
私たち栃木県民にとって、天皇御一家の皆様にはとても強い親しみを覚えている。もちろん両陛下は全ての国民と等しく接しておられるが、本県には那須御用邸や御料牧場があり、御一家がしばしばご訪問されているという事情が背景にあるようだ。
このような立場からすると、現在政府と国会で議論されている皇族数の確保や、将来の皇位継承の安定性確保の手段に対しては、どちらかというと形式が先行しており、血の通った議論にはなっていないように感じられる。天皇陛下がヨーロッパご訪問前の記者会見で、それらの議論を評して、「国民の理解や納得が得られることを期待する」と述べられたが、陛下として精一杯の懸念を表された、と言っても良いのではないか。
私は20年前、小泉内閣に置かれた「皇室典範に関する有識者会議」の報告を受けて、自民党内で行われた議論に参加していた。報告の内容は、将来の皇位継承を安定的に進めるには、長子優先の原則、つまり女性や女系天皇を認めても良いのではという、極めて画期的な内容だった。私はこの報告のうち、女性天皇までは認めても良いではという立場から意見を述べたが、党内では男系男子の皇統を守れという意見が強かった。しかし、そうこうしているうちに秋篠宮紀子妃殿下のご懐妊の報がもたらされ、小泉総理の「撃ち方止め」の号令で、議論は急速に萎んでしまった。
その時の議論では、過去に8方10代(重祚2例が含まれる)の女性天皇が存在し、推古天皇や持統天皇など、特筆すべき治世を行った例もあることを知った。また戦後すぐに皇籍を離脱した伏見宮家をはじめとする旧11宮家は、現在の天皇家とは約600年前の室町時代に、男系的に見て枝分かれした存在であることも知った。もちろんその後も天皇家とは姻戚関係を築いているが、少なくも80年近く民間人として歩んで来た歴史を、無視することはできない。
さて今回の議論は、天皇退位の特例法の議論の際に作られた、「有識者懇談会」の皇族数の確保に関する提言がもとになっている。眼下の皇族数の減少、取り分け男性皇族の減少に対する危機感が背景にある。提言の骨子は、
①女性宮家の創設
②旧11宮家からの養子の容認
の2つだが、これを受けて衆参両院議長のもと、国会の総意を目指した超党派の議論が、長い時間をかけて慎重に行われてきた。
国会の結論を受けた政府は、先日皇室典範改正法案をまとめて公表したが、国会の総意とは違った内容が幾つか含まれている。例えば、
①皇族の養子の子に継承権ありとして、皇族数の確保という本来のテーマから逸脱した、皇位継承まで言及したこと。
②女性皇族も皇統譜に記載されているものの、民間人と結婚した際には、住民基本台帳にも記載される。
などである。①も②も議長のもとの合意内容にはなく、特に②は、女性皇族には結婚したら皇室から出なさいと言わんばかりの手続きである。政府の改正案は国会の総意から逸脱したものと言わざるを得ない。
日本国憲法第1条は「(天皇の)地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と規定しており、仮に国民を代表する国会の総意がそれに置き換えられるとしても、国会の総意にも基づかない内容であれば、憲法の精神に反することになりはしないだろうか。
またこの通常国会は会期末を控え、他の重要法案での与野党対立で空転を続けている。「静謐な環境」のもとでこそ議論すべき皇室のあり方について、混乱の中で法案を議論することは、皇室に対して極めて失礼ではないだろうか。皇室典範の改正という国家的な課題に対しては、「国民の総意」という言葉を常に意識して、慎重にも慎重を期して取り組まなければならない。