1975年(昭和50年)堺屋太一さんが書いた『油断』が発刊され、超ベストセラーになった。もし日本に石油が来なくなったらどうなるのかという、近未来シミュレーションだった。実はこの本の原稿は1973年に完成していたらしいが、その直後に第4次中東紛争が起きて第1次オイルショックに見舞われ、混乱に拍車をかけかねないとして、発刊を2年遅らせたという。
まさに堺屋さんの先見の明とも言えるが、当時はトイレットペーパーが枯渇するというデマが人々をスーパーに殺到させた。その後1979年(昭和54年)にはイラン革命が起こり、第2次オイルショックが発生している。この時は人々の反応はもう少し冷静だった。
2回にわたる苦い経験から、国は石油備蓄制度をスタートさせ、現在では国と民間合わせて234日分の石油が備蓄されている。この度のアメリカによるイラン侵攻と、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖により、政府は備蓄の放出を開始した。国内石油市場は比較的落ち着きを取り戻したが、いつまでに海峡封鎖が解けるのか、石油関係の施設や積み出しの港が損傷を受けているのか、見通しが全く立っていない。
もしこのまま混乱が続くのであれば、ガソリンや軽油はもとより、石油由来の製品の供給が危ぶまれる。ビニール袋やペットボトル、化粧品やシャンプー、洗剤、点滴チューブや注射器などの医療器具、化学繊維など、石油由来製品は我々の生活に欠かせないものばかりだ。特に透析の際のチューブなど、患者の生死にかかわるものもある。
先日厚労省は石油由来の医療器具の安定供給を指示したが、他の分野でもアラートを鳴らす必要が出てくることが考えられる。無闇に騒ぎを大きくすべきではないが、政府はもっと強く、節電や無駄な消費を控えるなどの呼びかけを、国民に広くすべきではないか。同時に政府はもっと強く事態の収束をアメリカに迫るべきだし、かつては友好国だったはずのイランとの直接交渉により、日本関連船舶の海峡通過を早期に実現する努力をすべきだ。