昨年は世界が恐れた「イスラム国」の軍事拠点、シリアのアレッポが陥落して、その勢力がようやく弱まったところだが、一方でアサド大統領率いる政府軍と、反政府勢力との対立が激化している。特に首都ダマスカス郊外の東グータ地区は反政府勢力の拠点と言われるところだが、そこを激しく空爆した政府軍が化学兵器を使ったのではないかと国際社会から疑われていた。
シリアの内戦は2011年の「アラブの春」をきっかけとして、政府軍と反政府軍、さらにはクルド民族、イスラム国と言った数多くの勢力がそれぞれに対立するという、極めて複雑な状況にある。そこから逃れようとする数多くの難民が、命の危険を冒してヨーロッパに移動する中で、幼い子供たちが溺死するなど数多くの悲劇が報告されている。
ヨーロッパ各国は難民流入に対応せざるを得ないとの事情により、シリア内戦の動向には大きな関心を寄せているが、それは1990年代のユーゴ内戦への関心の高さに匹敵するものと言われる。いずれの内戦からも地理的、地勢的に離れた我が国の関心が余りにも薄いと、国際世論から批判されたこともある。彼らの事情と心情を理解しておく必要がある。
このような背景のもとで、このほどアメリカ、イギリス、フランスがシリア政府軍の化学兵器開発拠点に軍事攻撃をかけた。人道的見地から化学兵器使用を糾弾するとともに、1日も早く内戦を終局させ、シリア難民の発生をこれ以上増やしたくないという焦りの表れかもしれない。しかしこれにはアサド大統領の後ろ盾であるロシアの反発を招くという、別のリスクを背負っている。
我々日本人は「なぜ軍事攻撃しなければならないのか」「またトランプ大統領のわがままな強硬手段がはじまった」などと批判的に捉える傾向がある。もちろん軍事的手段によらず、外交的手段で解決できればそれに越したことはない。しかし複雑な中東情勢やヨーロッパの人々の事情と心情を理解した上で、慎重に価値判断を出していかないと、「外交音痴」「世間知らず」のレッテルをまた貼られてしまうのではないだろうか。