今年も穏やかな正月を迎えたが、北朝鮮の核・ミサイル問題は年末も今も緊張状態が続いている。トランプ大統領と金正恩委員長との激しい言葉のバトルにはうんざりさせられてきたが、ここにきてわずかな変化が出始めていることも事実だ。
金委員長の年頭所感は基本的に戦闘態勢を保ったままだが、この2月に韓国の平昌で開催される冬季オリンピックに、自国選手団を参加させる意向を示し、オリンピックの成功を祈る言葉を付け足した。韓国並びに文在寅大統領に対する直接の批判も、今回は影を潜めた。明らかにこれまでの強硬姿勢一辺倒とは違っている。 文大統領の対話の呼びかけに対して、1月9日に板門店で2年ぶりの会談に応じた。ただその内容がオリンピックに限定されたものか、核・ミサイル開発を含む安全保障問題にまで言及されるかは分からない。
韓国の有力新聞には、テーブルの上にミサイルの発射ボタンを右側に置きつつ、左手で五輪マークを弄んでいる金委員長のカリカチュアが描かれていた。両睨みでお得意の瀬戸際外交を揶揄した記事でよく出来ているが、一つだけ違うと思うのは、金委員長の表情が太々しく描かれているが、実際は遥かに深刻ではないかという点だ。国際的な経済制裁もじわじわ効き始める頃で、日本海側に漂着する漁船の増加も、必死で水揚げを増やすためというより、貧困を逃れて半ば脱北を目指しているかのようだ。
北朝鮮の国内状況が極端に悪化している中で、北との対話を模索してきた文在寅政権への秋波とも受け止められるが、もちろん現段階では過大評価することは禁物だ。何より核・ミサイル開発を放棄すべしという国際社会の要求を受け入れなければならないが、一方では北朝鮮が何を考え行動しようとしているか、注意深く観察する余裕も持たなければならないのではないか。
外交というのは昔から、一方通行であったり単線的であったりはしない。相手の立場や置かれた状況を観察して、押してみたり引いてみたりしながら、少しでも国益を高めていくという、極めて複雑な行為である。今回の対北朝鮮政策も決して例外ではないはずである。
今は圧力の時であることは明白だが、いずれ対話の時期が訪れるかもしれない。韓国と日本の間には従軍慰安婦という難しい問題も抱え、これは別途対応しなければならないが、一方で北朝鮮に対して、圧力から対話へと変化するタイミングを見失わないための準備を、我が国もそろそろ考えておくべきではないだろうか。