はじめのマイオピニオン - my opinion -
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教育の無償化への期待と課題

 先の衆議院議員総選挙で、我々自民党は高齢者向け社会保障と同時に、「全世代型社会保障」の導入を公約し、取り分け若者への投資を重点的に行うととした。総選挙での自民党の勝利は、民進党の解体をはじめとする野党の敵失によるところが大きかったが、若者への投資という約束への期待も少なくなかったはずだ。

 超高齢化・少子化そして忍び寄る人口減少社会において我が国が活力を失わないためには、子育て環境を飛躍的に改善したり、若者が教育を通じて社会の一員として立派に支えてもらうことが不可欠である。この度の公約はその実現の第一歩と位置付けられる重要な意味を持つものと期待される。

 具体的には、まず3歳~5歳児の保育料を所得制限なしに無償化し、0~2歳児については所得制限付きで順次無償化する。幼稚園に通わせている家庭もこれに準じるとしている。大学や専修学校などの高等教育においても、これまでの貸与型奨学金から給付型奨学金に転換拡大して、実質無償化を図る。

 一方高校段階では、これまでに公立高校の無償化は実現して来たが、私立高校についても就学支援金をさらに拡大することにより、実質無償化を見図ることが公明党から提言され、自民党もこれに同調することとなった。

 これらの施策を実現するための財源としては、2019年10月に予定される消費税2%アップ分の約5兆円の増収のうち、約1兆7000億円分を充当し、財界からは3000億円拠出してもらう約束を安倍総理は取り付けた。幼児教育・保育の無償化については、一部小泉進次郎氏らが提唱した「子ども保険」によって賄うことも、検討することとなった。

 これまでの準備段階ではどちらかというと官邸が先走り、自民党側がようやく追いつくと行った状況であり、党側の不満も溜まりつつある。今後の教育無償化の制度設計では、もう少し丁寧な議論が自民党内外で行われる必要がある。

 さらに心配しているのは、所得制限を付けないで無償化に踏み切ると、国民の間でモラルハザードが生まれるのではないかということだ。家庭における勤労の意欲や自助努力の意義、子どもたちの親や社会に対する感謝の念が薄れてしまわないかということだ。さらに大学生への奨学金付与が高校での成績の如何を問わなければ、高校教育そのものが無視されかねない。

 次に無償化には付き物の課題だが、国民の間に不公平を引き起こしかねないという問題がある。待機児童が存在する限り、保育所に通っている家庭とそうでない家庭の間の不平等は、無償化によって一層拡大してしまう。無償化の前に待機児童を解消する方が先ではないか。

 また無償化は教育や保育の質の低下を招くのではないだろうか。無償化は大学進学率を上げることにつながるが、受け皿をきちんと用意しておかなければ、教員の不足などによって教育内容が疎かになり、ただでさえもランキングが下がり続けている日本の大学が、さらに劣悪になりかねない。幼稚園教諭や保育士の不足も深刻になり、過重労働や手抜き保育が起こりかねない。彼らの一層の処遇改善としっかりした養成が先決ではないだろうか。

 教育の無償化はとても聞こえの良い政策には違いないが、性急にことを進めるとこれらの問題を起こしかねず、現場の声を十分聴きながら慎重に進めていくべきである。

[ 2017.11.27 ]