去る8月21日、日本時間では22日未明、アメリカ合衆国を北西部から南東部にタスキをかけるように、皆既日食の本影が通過した。アメリカでの皆既日蝕はおよそ100年ぶりという。日蝕とは太陽・月・地球の順番で一列に並び、月によって地球に来るべき太陽の光が遮られることにより、起こる稀な現象である。
月の影から太陽がはみ出して見えるのが「金環日蝕」、太陽が完全に見えなくなるのが「皆既日蝕」という。この違いは月と地球の距離の微妙な違いから生じる。日本では2012年5月20日に金環蝕が見られたが、皆既日蝕は今から18年後の2035年9月2日になってしまう。63歳の私は81歳になっているが、北陸から北関東を通過するので、何とか長生きしてこの目で確かめたいと願っている。
日蝕は大体100年の間に75回程度、そのうち皆既日蝕は7回程度の頻度と言われる。1.33年に一度という出来事なので、案外多いではないかと思われがちだが、7割は海上であり、地上でも人間が居住している地域で起こる可能性は、格段に低くなるのである。今回はあの「グレートアメリカ」で起こったために、多くの人々が目撃者となり、日本からも観測ツアーに参加した人が多かった。トランプ大統領はニューヨークで部分日蝕を見たらしい。
現代では天体の軌道計算がより精密になり、数千年先、数万年先の日蝕の発生時間も場所も特定出来るが、昔の人々は突然太陽が欠け始めて、やがて真っ暗になる現象に肝を冷やしたのではないか。須佐之男命が蛮行を働き、それに腹を立てた天照大神が洞穴に隠れるという「天の岩戸」伝説も、日蝕から生まれた神話と言われている。
しかしそういう現代でも、日蝕の神秘性は十分に保たれている。私はまだ皆既日蝕を経験してないが、栃木県天文同好会の方々に聞くと、日蝕が始まると急に寒くなり出し、完全な夜の暗さでなく、地平線の辺りが薄暮で、頭の上が真っ暗という、不思議な光景が出現するという。アメリカでも奇声を上げたり、興奮している市民が数多くテレビに映っていた。
科学的にも、普段太陽の光で観測できにくい太陽フレアやプロミネンスを、正確に観測出来る貴重な機会である。私たちはあらためて宇宙や自然の神秘に、畏敬の念を抱くとともに、人間の為せる技が如何にちっぽけであるかを、再確認する良い機会を得たのではないだろうか。