昨年来、韓国政界を揺るがしてきた、朴槿恵(パク・クネ)大統領とその友人である崔順実(チェ・スンシル)氏の癒着関係が、遂に憲法裁判所による大統領弾劾訴追という、韓国政治で初めての出来事を起こしてしまった。
崔氏の行動が大統領の不適切な対応を生み、韓国最大財閥・サムスンのトップをも引き摺り下ろしてしまった。韓国国民の怒りは、度重なる大規模デモの発生により、我々にも痛いほど伝わってきた。大統領罷免によってその怒りは静まったかも知れないが、これが新たな韓国の混乱、さらには東アジアの不安定につながるのではないかと、大変懸念している。
韓国はかつての朝鮮半島における王朝の時代から、特異な社会構造を示してきた。政界でも財界でも、地方出身者が中央で出世すると、それにつながる一族郎党が、その権限を利用して利益を得るケースが目立って来た。また韓国経済は大財閥によって左右されることが多く、健全な中堅企業や中小企業がなかなか育たない。
今回の崔氏が引き起こした一連の疑獄事件も、このような特異な社会構造を背景として発生したものと思われる。さらには過去の大統領の多くも同じ構図の中で苛まれ、大統領退任後に訴追されたり、自殺に追い込まれるケースもあった。今後の韓国政治や経済の安定的発展を望むのであれば、このような社会構造を根本的に改善しなければならないのではないか。
さて朴大統領の出身母体である与党セヌリ党は、5月に実施される次期大統領選挙に候補者が出せない状況が続いている。有力候補とされていた潘基文(パン・キムン)前国連事務総長、大統領代行を務めていた黄教安(ファン・ギョアン)氏が相次いで出馬を辞退している。最大野党の「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補が最有力とされているが、仮に文氏が当選した場合、これまでより左寄りの政治が行われる可能性が高い。
折しも北朝鮮・金正恩政権は核ミサイル開発に拍車をかけ、マレーシアで義兄の金正男氏を暗殺するという蛮行を行った。日米をはじめ国際社会がまとまって北朝鮮制裁に力を合わせようとしている矢先、韓国の新大統領がかつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏のように、北に対する「太陽政策」をとられると、対応が難しくなってしまう。韓国大統領選挙の結果は、ここ数年の東アジアの安全保障に大きな影響を与えかねない。注意深く見つめていかなければならない。