去る7月4日に投票が行われたイギリスの下院総選挙で、スナク首相率いる保守党が議席を3分の1に減らし、14年ぶりに労働党のスターマー政権が発足した。保守党政権下で進められたEU離脱による人手不足や物価高などにより、国民が保守党に嫌気を指した結果である。早速スターマー首相は、保守党政権下で傷ついたEUとの関係修復、NATO諸国との関係改善などを訴え、国内では貧困層や労働者の保障充実などを訴えた。
ところで少し前に選挙が行われたEU議会では、かろうじてフォン・デア・ライエンEU委員長の続投が決定されたが、右派や極右勢力の伸長が目覚ましかった。これを恐れたフランスのマクロン大統領は、起死回生を企図して総選挙に打って出たが、逆にル・ペンを党首とする国民連合(RN)が第1党に躍り出るという大誤算に遭遇してしまった。
いまヨーロッパではEUの加盟各国に対する要求が厳しすぎるとして、EUを嫌う傾向が強くなりつつある。移民政策も槍玉に挙がる。それらと平仄を合わせるように、各国の政治も右傾化が顕著になりつつある。このようなEU加盟各国の政治状況とイギリスの総選挙の方向は、実は真逆のベクトルを示している。
なぜこの両者が食い違っているのか。それは多分、イギリスの政治が、ワンサイクル先を行っているからではないか。どこよりも先にEU離脱を経験し、そのデメリットをいち早く経験して、親EUに回帰しようともがいているのである。もちろん他の国々がイギリスの経験を踏襲するかは明確ではなく、しばらくは嫌EUの傾向を示すだろうが、やがて親EUになる可能性もゼロではないはずだ。
しかしそのためにもEU側が、さまざまな分野で各国への締め付けを緩和する必要が生じるはずである。EUの存続のためにフォント・デア・ライエン委員長をはじめとする、EU執行部の手綱捌きが極めて重要になるはずである。この辺りを日本EU議員連盟の私としては、注目していきたい。