コロナ禍も癒えたと思ったら、訪日外国人の数が急激に増えた感がある。統計を見ると昨年の訪日客は2500万人。今年は3月だけで300万人に達したというから、年間で3000万人に達するのはほぼ確実だ。国別に見ると韓国、台湾、アメリカの順だが、これに中国が加わるともっと数になるだろう。中国からは従来の半分まで回復している。
この背景には、諸外国でブームとなっている日本の伝統文化やマンガをはじめポップカルチャーに対する憧れ、ヘルシーな日本食への関心、そして何よりも記録的円安が、訪日客の背中を押しているからだろう。確かに訪日客の買い物の意欲は盛んで、経済波及効果は大変大きいが、一方であちこちに問題を発生させていることも事実だ。
京都では舞妓さんに所構わずカメラを向けるパパラッチ問題が起こり、富士山とコンビニエンスストアの2ショットを撮るために、交通渋滞が起こり、事故の危険も増しているという。いわゆるオーバーツーリズムという現象だが、最近はその度合いがどんどん高まっている。それぞれ防止対策が打たれはじめているが、なかなか根本的解決には至っていない。
しかしもっと深刻な問題は、観光スポットやその周辺では、インバウンドの好みに合わせた店舗や商店街が誕生しつつあることだ。特にアジア系、東南アジア系のインバウンド向けに、派手な色彩の看板が乱立したり、建物すら彼らの好むものに建て替えられたりしている。昔からある日本の落ち着いた老舗や家屋が壊され、無国籍の派手な建物が林立する姿は、全く馴染めない。
外国人から見て有力な観光スポットを昔ながらに保つには、もっと日本のあちこちで、インバウンドを分散して受け入れる努力が求められる。例えばクルーズ船で日本各地の港を巡ったり、あまり知られていない地方の伝統文化やお祭りを、テーマごとに回遊させるなど、いくらでも方法はある。インバウンドをおらが町に呼び込むためのアイデアを競い合うことも、地域の活性化につながるはずだ。
オーバーツーリズムを放置しておくと、地元の人々の生活を脅かすばかりでなく、日本の原風景や落ち着いた街並みが壊れてしまいかねない。訪日外国人の数をただ増やすのではなく、秩序ある受け入れ態勢を整え、地域の活性化に結びつくイベントやストーリーを工夫するなど、観光庁や各自治体にはもっと努力してもらわなければならない。