私が学生時代に読んだ本の中に『天候改造オペレーション』という面白いSF(空想科学小説)があった。1966年にアメリカ人の著者ベン・ボーヴァにより発表された。気象学を究める若い科学者が、勤めていた気象予報会社では、上司から気候改造の実験が許されず、大資本家の息子と新しい会社を作って、天候を変える研究に没頭したというあらすじだ。
どういう方法で天候改造したのかはあまり覚えていないが、政府や農業関係者の要望に応じて、サイクロンや台風の進路を変えたり、旱魃地帯に雨を降らせたりしていた。そのうち軍の目に留まり、天候改造技術を新たな兵器として提供させようとするが、果敢に抵抗する姿が描かれていたと記憶する。
現在でも天候改造の誘惑は続いている。旱魃や山火事が相次ぐアメリカやヨーロッパなどの約50ヵ国では、ヨウ化銀の粒を上空から散布し、人工的に雨を降らせようと懸命な努力が続いている。ただしそこに雨雲になりうる雲が存在しなければならず、上手くいっても降水量は1割程度しか増えないようだ。一方で他の地域の雨量を減らす場合も報告されており、中国で行われた大規模な降雨実験が、隣国インドに旱魃をもたらしたとして、インド政府は「我々の雨雲を返せ」と抗議したという。
このように人工降雨をはじめとする天候改造の試みは、必ずしも上手くいっていないのか現状だ。しかし50年以上も前に気象予報を生業とする民間会社の誕生を予測したり、民間の技術が容易に軍事転換できるという、デュアルユースの流れを言い当てたことは、「空想」を遥かに超える小説だったのではないか?
さらに我々に与えられた教訓は、天候改造をやろうとすると、他の地域に好ましくない影響を与えてしまうということだ。この夏の暑さに辟易している我々にとって、天候改造の誘惑にに誘われてしまうのはやむなきことと思うが、地球全体の気候システムをコントロール出来ない限り、安易に手を出すことは慎むべきではないだろうか?