はじめのマイオピニオン - my opinion -
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アジア初、元素発見の快挙!

 元素周期表でいう113番元素が、日本人研究者の手によって発見された。理論的には存在しうるが、実際の実験により存在を確認したということだ。アジアで初めてのことである。この快挙は、理化学研究所RIビームファクトリーの森田浩介グループディレクターをはじめとする研究員たちの努力の結晶だ。

 

 世界最強と言われる線形加速器RILAC(ライラック)を使って、原子番号30番の亜鉛の原子核を、83番目のビスマス原子核にぶつけるという方法である。30+83=113という至極当然の足し算だが、実際はとても難しい。1兆分の1cmの原子核同士が当たる確率はほとんどゼロ。これを何度も繰り返して、10年間にようやく3個出来た。しかしその原子核はわずか1000分の2秒で崩壊してしまうらしい。崩壊の過程を観測して、最初に113番目の原子核があったことが、ようやく分かったのである。

 

 私たちは化学の授業で、元素の周期表を「水兵リーベ僕の船…(水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン…)」などと、必死に覚えたものだ。水素から113番目の元素というから気が遠くなる話である。90番台からは自然界に存在しない未知の物質であり、人工的にしか作り出せない。

 

 ところで「なぜこんな研究するのか」とか、「人間の生活には直接関係ないのでは」と言った声も聞かれる。しかし元素は世界の構成要素であり、これを探求することはビックバンのような宇宙の成り立ちを解明する糸口ともなり、人類に化学の基礎を与え、科学に対する人々の興味関心を高めることにつながる。

 

 これまでに元素を発見した人の国籍を見ると、多い方からアメリカ20人、ドイツ19人、スエーデン19人、イギリス18人、フランス16人、スコットランド7人、ロシア7人と、欧米諸国の独壇場と言ってもいい。スエーデンが思いのほか健闘している。その中に日本が食い込んだのは、大変な快挙であることがお分かりだろう。113番目元素は、実は同時期にアメリカとロシアも発見したものの、データの確かさで日本に軍配があがったようで、激しい競争だったことがうかがえる。

 

 発見者には命名権が与えられたが、かなり迷ったようだ。元素名には「ニウム」を語尾につけるケースが多いので、まずは「ニッポニウム」が候補になった。しかしこの名は、日本の化学者で東北大学総長だった小川正孝氏が、1908年に43番目の元素と思って使った経緯があり、その後再現出来ずまぼろしの元素だったのである。残念ながらこれは使えなかった。

 

 次は「ジャポニウム」だが、これは日本人を揶揄する「ジャップ」を連想するとして却下された。ようやく「ニホニウム(Nh)」にたどり着いたようだが、むしろこれは前の2つに比べて、肩の力が抜けていて日本らしい名前になったのではないだろうか。

 

 私たちはしばしば、目の前で華々しく展開される応用科学に目が奪われがちだが、この度の新元素発見と命名によって、基礎科学の大切さを再認識する良い機会を与えられることになった。

[ 2016.06.13 ]