最近の日本は元気がない。政府が掛け声をかけても、賃金は思ったように上がっていかない。経済成長率もプラスにはなっているものの、G7の中では最低の水準にとどまっている。岸田総理も「新しい資本主義」と言う政策テーマを掲げ、日本経済・社会の再生を目指し、賃金の上昇や生産性の向上、科学技術振興、人への投資(リスキリング)、そして新規創業(スタートアップ)支援などを打ち出している。
私はこれまで自民党の科学技術イノベーション戦略調査会の中に置かれた、基本問題小委員会の委員長として、最近のわが国の基礎研究の停滞と、若手研究者の積極的な支援方法について議論を続けてきた。ショクだったのは、国別の引用論文数が、日本は10年前には世界4位だったが、現在は11位迄下がってしまったことだ。
これまで政府・与党は、FIRSTやimPACTやムーンショットなど、突出した研究を支援すべく、大きな予算を付けて、矢継ぎ早に実行してきました。しかし裾野が狭く、そのため頂点も低く、画期的な成果はあまり得られていない。。我々が目指すところは、「基礎研究」にも光を当て、裾野の広い研究開発を下支えし、頂点をさらに高くしていくという、当たり前の研究環境を取り戻すべきと考える。
このたびは10兆円規模の、いわゆる「大学ファンド」がスタートし、数年後から極めて限定された「国際卓越研究大学」に研究費が集約することになった。我々はできるだけ幅広い研究にこのお金が使えないものか、大学間の共同研究などによって支援先が広がっても良いのではないかと提案して来たが、政府の答えは冷たかった。国際卓越研究大学の選に漏れた国立大学や地方の大学に対しては、支援パッケージを用意すると文科省は説明するが、予算規模はあまりにも小さすぎるのではないか。
さらに若手研究者への支援体制だが、いわゆるポスドク対策、科研費の基金化やポータブル化、若手研究者に期限なしのポストを与え、落ち着いた環境のもとで研究を続けることができないかと、小委員会を通じてアピールしてきた。さらには研究に純粋に打ち込める時間の減少に対して、URA(大学研究支援要員)を派遣したり、科研費の間接経費割合を増やすなどして、研究者の負担を軽くすることも提言してきた。今後も力を尽くして行きたい。
なお政治の世界にいると、最先端科学技術に触れる機会は多いが、いわゆる基礎研究や若手研究者の研究環境となると、情報がなかなか集まらない。政治と研究分野がもう少し近づくか、あるいは優秀な翻訳者(インタープリター)の存在が必要ではないかと考えている。さらには行政の中にも、科学者または研究経験者のポストを作り、行政と科学技術の連携も大切だ。
このたび若手研究者の間で、研究環境の改善を目指して、政治や行政、社会に対してアピールする集団が結成された。「日本科学振興協会(JAAS)」と言う団体で、全米科学振興協会(AAAS)を参考にして作ったという。先週末そのキックオフ・ミーティングが行われたが、彼らの活躍に期待するとともに、私も政治や行政への橋渡しをサポートしていきたいと考えている。