先日は評議員を努める飯塚育英会の特別講演会で、JAXAのはやぶさ2プロジェクトのミッションマネジャー・吉川真先生の話をお聞きした。小惑星のサンプルリターンという困難なミッションを、如何に成功裡に行えたか、その並外れたご努力に感動しきりである。
また吉川先生は「プラネタリー・ディフェンス」という新たな分野のリーダーでもある。かつては「スペースガード計画」と呼ばれたが、地球近傍の小惑星衝突から地球を守る試みである。火星と木星の間には数多の小惑星が公転しているが、地球軌道にクロスする小惑星も少なくない。大きさは数メートルから数百キロと様々だが、数メールならたとえ衝突しても大気圏で燃え尽きる可能性が高いが、10メートルを超えるとなんらかの影響が出てくる。
2013年のロシア・チェリャビンスク郊外に落下したものは18~20メートルほどで、壁やガラス戸が広範囲で壊れた。1908年にはシベリアのツングースカに落ちた物体は50〜80メートルと推定され、東京都とほぼ同じ面積の森林が薙ぎ倒された。6500万年前には直径10キロほどの小惑星がメキシコ・ユカタン半島に衝突して、大量のチリが長期にわたって日光を遮り、恐竜絶滅の引き金となったという学説が有力になっている。
地球近傍小惑星の衝突は今後も起こりうるが、それらを注意深く観測して軌道計算し、将来衝突する危険性のある小惑星を特定することが可能になった。JAXAが岡山県美星町に設置する望遠鏡とレーダーで、このための観測を常時続けている。地上に被害を起こす衝突は滅多に起こらないが、ひとたび起こると甚大な被害を及ぼす。したがってこれに対する備えは、決して怠ってはいけない。
衝突する小惑星の大きさや時間場所などの情報を、事前に世界の人々に知らせることは必要だが、パニックにならないことが大切である。また衝突を回避するには、小惑星にロケットをぶつけて軌道を少し変えてやれば、長い間にどんどんずれていくはずだ。ややSF的だが強力なレーザー光線を照射したり、大きな帆を張って太陽風によって軌道ずらすこともアイデアとしては考えられる。膨大な予算と技術開発が求められる。
中国の諺に「杞憂」という言葉がある。周の時代の杞の国の人々が、「天が落ちてくる」というありもしないことを恐れたことに由来したが、実際には「天が落ちる」可能性が僅かながらあるのだ。したがってこの話は杞憂ではなく、真剣に心配して備えを整える必要があるのだ。