先週の半ばに日本のマスコミは、天皇陛下が生前退位される意向であると、一斉に報じた。まさに寝耳に水という状態で、列島全体が揺さぶられた。 宮内庁も政府も表向きは否定しているが、水面下では官房副長官をヘッドとして議論や研究を始めており、どうやら本物らしい。
陛下には、これまで前立腺がんに罹患されたり、冠動脈バイパス手術も受けられたりで、体力の限界感じられたのかもしれない。陛下の真面目さの故に、公務をこれ以上省略出来ないというのであれば、むしろ退位して国民に迷惑をかけたくないというお気持ちなのではないか?我々は陛下のお気持ちを最大限尊重申し上げるべきだと思う。
ヨーロッパ各国の皇室では、むしろ生前退位が常識であると聞く。国民もそれが当たり前とされている。一方我が国はどうかというと、憲法の規定により、皇位継承は皇室典範に委ねられている。典範では摂政の規定はあるが、退位は崩御の時に限られている。直近で生前退位されたのは、200年前の光格天皇にまで遡る。
それでは皇室典範を改正すれば良いではないかと思うが、実は様々な問題をクリアーしなければならない。退位した後の呼び名については、過去には「上皇」を使ったことがあるが、現代には相応しくないのではないか。後継の天皇との役割分担はどうするのかも悩ましい。実質的に天皇が2人いることにならないか。退位というカードを政治的に悪用することがないのかどうか。皇太子が不在になることも考えなければならない。
さらに皇室典範をいじるとなると、歴代内閣が検討してきた女性天皇や、女子皇族による宮家創設などの懸案も頭をもたげてくる可能性がある。これらは皇室の人数の減少に歯止めをかけ、将来にわたって皇位継承がスムーズに行われるために、避けて通れない問題である。
しかしこれらに触れはじめるとエンドレスになる危険があり、却って陛下のお気持ちに添えない結果になってしまう。今後は生前退位という問題に絞って、慎重かつ一定の速さを持って議論すべきではないかと思う。また「天皇の地位は、国民の総意に基づく」との憲法第1条の規定に従い、国民世論の動向を注視しなければならない。