総裁選挙も終盤を迎えたが、戦況は混沌としている。そうした中、新たで厄介な外交問題が降りかかってきた。TPP(環太平洋経済連携協定)への新たな参加申請を中国と台湾が相次いで行ったことである。当初はアジア太平洋の12カ国が高度な自由貿易圏を形成するはずだったが、アメリカのトランプ政権が突然参加を見送った。残り11カ国で協定が締結されたが、日本の粘り強い交渉が実を結んだとも言える。
このような経緯から、まずはアメリカがTPPに復帰してもらうことが先決だが、その前に中国か、台湾かの二者択一をTPPは迫られることとなり、これを主導してきた日本の対応が注目されている。TPPの規定により、新規加入には全ての参加国の承認を必要とする。中国と台湾の敵対関係を考えれば、どちらかが参加すればもう一つの国・地域は参加できないことになる。台湾の当局者が「リスク」と指摘したのはこのことである。日本が中国との国交回復をするかしないかで大論争してから50年が経過した。今回は50年ぶりに厳しい判断を迫られることとなった。
この問題は言うまでもなく、単に経済連携のあり方だけにとどまらず、外交・安全保障の問題と密接に絡む。日中の経済交流はとても大きく、中国のマーケットが開放されれば、我が国の経済とっては朗報に違いない。しかし最近の中国の海洋進出や尖閣諸島の周辺への接近事案は、決して見逃すことはできない。一方で台湾、とりわけ蔡英文政権は極めて親日的であり、東日本大震災における国を挙げての義捐金や、コロナ禍での迅速なマスク提供など、互いの助け合いが続くそうした台湾を排除して良いはずはない。
私は中国にも台湾にも友人がいて、どちらかを選べと言われると、大変困惑してしまう。また我が国の国際的立ち位置を考えると、短絡的にどちらかを決めるのではなく、熟慮すべき段階である。どうしても決めなければならぬ時は、TPPの厳しいハードルをどちらがより良く迅速にクリア出来るのか、冷静で客観的な基準に忠実に従って、淡々と決めるしかないのではないか。心情的には台湾なのだが。