去る4月16日(日本時間17日)、コロナ禍が拡がってから初めての日米首脳会談が行われた。バイデン大統領と菅総理の初対面であり、大統領就任後、外国首脳との初めての対面でもあった。この会談は日米はもとより、中国はじめ関係国の関心を集めた。それは日米会談で「台湾」「台湾海峡」が言及されたためであり、台湾に直接触れたのは、沖縄返還が最終合意した1969年のニクソン・佐藤会談以来、実に52年ぶりのことである。
しかし52年前は日本と中華民国(台湾)との間で国交があった時の話で、同じ言及がされてもその時と現在では意味合いや重みが全く違う。言うまでもなく日本は、1972年に中国との国交樹立するとともに、台湾とは国交断絶した。しかし経済文化面では、交流を続けてきた。今回の首脳会談は、この構図の下でも安全保障体制においては、若干の修正を加えることにつながるのではないか。
「台湾」言及の背景には最近の中国の軍拡や、「海警法」施行があることは明らかだ。我が国固有の領土である尖閣諸島防衛の困難が予想され、台湾有事すらも現実味を帯びつつある。このような時に「台湾」を言及することは適切だが、そのことにより有事の際に日本は、米軍の活動に一定の協力をしなければならず、在日米軍基地が最前線になることも容認しなければならない。安倍内閣の2015年に成立した安全保障関連法で規定した「武力攻撃事態」に至らないまでも、「重要影響事態」場合によっては「存立危機事態」を想定したうえで、日米間で綿密なシミュレーションをしておくことが、責任ある政府の対応ではないか。
しかし一方では、中国との関係をこれ以上悪化させることも避けるべきだと考える。台湾とはもちろんだが、中国を含めた半導体を始めとする精密機械のサプライチェーンは、日米にとって大変重要である。中国のレアメタルやレアアースも、日米の先端産業には欠かせない材料だ。日本も国内調達に舵を切りつつあるが、依然として中国との経済のつながりは断ち切ることはできない。また世界第二位のGDPを生み出す超大国を、自由主義社会の周辺に留めておくことは、極東のみならず世界全体にとって中長期的に重要なことである。
今後日本のとるべき外交姿勢は、日米同盟関係を実質的にさらに強化することが第一だが、同時に中国を孤立させず、国際社会に間口を開かせておくために、日本が米中関係の仲介役を担うことも極めて重要なことである。