新型コロナウイルスの感染が始まってから1年余、ようやく2月17日から医療関係者からワクチン接種が始まった。今のところ順調に進んでいるようだが、今後3月中旬までに公的病院関係の4万人、3月中旬から一般の医療従事者370万人、4月から重症化しやすい高齢者3600万人、6月から高齢者施設従事者200万人と基礎疾患のある方820万人と、順次接種が実施される予定である。
今懸念されているのは、第一に既に承認済みのファイザー、まもなく承認されるアストラゼネガ製のワクチンなどが予定通り提供されるかどうかである。製造工場のあるEUでは同地域への供給に遅れがあってはならないと「輸出管理」を行っており、このためある程度の遅れを生じる可能性がある。またワクチンごとの保存温度が違うため、どの会社のワクチンがどのくらい供給されるかにより、接種現場の対応が変わってくるため、準備する自治体は相当気を揉んでいる。
懸念の2つ目は、ワクチンの副反応である。効き目については、先行事例のイスラエルで肯定的な結果が出ている。副反応も20万回に1回ということであり、接種現場に「エピペン」(アナフィラキシー治療剤)などの準備がされていれば、早急に対応できる。しかし20万分の1という数字はあくまで海外の事例であり、日本人の反応についてはまだデータが十分ではない。先行接種する医療関係者のうち2万人を経過観察して、万全を期していく。
懸念の3つ目は、接種の現場対応がスムーズに行われるかどうかである。ほぼ国民全てに接種するという前代未満の大プロジェクトのため、実施主体の自治体の戸惑いは大きい。したがって成功事例や優良事例を自治体間で情報共有することが大切だ。また接種したかどうか、2回目はいつどこで摂取するかなどの個人情報が適切に管理されることが不可欠である。しかし国も自治体もマイナンバーをはじめとするデジタル化に着手したばかりであり、手作業も含めた急拵えの対応になりそうだ。
懸念の4つ目は、接種を終えた人々がそれまでの自粛を解除して活発に動き出し、まだ接種していない人々との間でトラブルや新たな偏見・差別が起きるのではないかという点である。加えて様々な理由で接種が出来ない方(現時点では妊娠している女性など)や、接種を拒否している方も生じるため、問題はより複雑になりがちだ。したがって大方の国民が接種を終え、集団免疫が出来る頃までは、一定の自粛を継続し相互理解を深める必要がある。
なお新型のウイルスによる感染症の拡大は、今後も起こりうる可能性が十分にあり、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」の教訓を忘れず、一過性の対応にしてはならない。今後も医療提供体制の強化や、各機関の間の連携、デジタル化による個人データの適正管理、さらには生化学分野の研究開発の足腰強化、製薬会社の薬品開発能力の充実に万全を期さなければならない。