平成20年に我が国の宇宙基本法が成立し、それまで宇宙利用を平和目的のみに限定した姿勢を変更し、安全保障分野に拡大した。またこれをもとにした宇宙基本計画が策定され、まもなく10年が経過しようとしている。現在、次期宇宙基本計画を策定するための議論が、政府において活発に行われている。
この10年間アメリカをはじめ、各国の宇宙における活動が、一層活発になっている。月を周回する宇宙ステーションをつくる「ゲートウェイ構想」や、かつてのアポロ計画に続く有人月探査である「アルテミス計画」がNASAにおいて具体化しつつある。民間企業が宇宙旅行に進出する時代となり、宇宙における安全保障への取り組みも活発になっている。宇宙開発の主体が多様化しており、中進国や途上国も取り組み出している。
現在の宇宙基本計画では、これらの動きを取り入れておらず、対応が遅れる懸念がある。これらの動きをしっかり取り込んだ新しい計画が望まれる。私はその際に踏まえるべき原則として、科学技術や純粋な学術研究という分野、宇宙ビジネスの振興という分野、安全保障の分野をバランスよく発展させるべきと考える。3分野それぞれが密接に関連しており、どれか一つの分野が弱いと、他の分野の発展の足を引っ張りかねないからである。
ところで最近の我が国の宇宙開発では、安全保障分野に勢いがある。その中心は「宇宙状況監視(SSA)」と呼ばれるもので、用済みの衛星やロケットの残骸など、スペースデブリ(宇宙のゴミ)の状況を把握して、衛星との衝突を回避すること。さらにはデブリの捕獲や除去の方法についても検討することである。スパイ衛星を監視し、活動を抑止することも含まれる。政府としては航空自衛隊の中に「宇宙作戦隊」を組織すべく、防衛省設置法を改正する準備をしている。日米安保体制をさらに強化することにもなるが、実はヨーロッパ、アメリカ、日本の3地域が連携してこの活動を行うことによって、デブリを24時間監視するメリットもある。
しかしこのスペースデブリの観測は、実は以前より科学者の手に委ねられて来た。観測のノウハウは彼らが開発し実用化してきたものだ。その協力なくして自衛隊が行うことは不可能である。彼らはさらに地球近傍天体(小惑星)観測も同時に行なっており、これらの地球衝突の可能性も探っている。これも重要な宇宙状況監視には違いがない。このように科学的研究と安全保障は密接に関わっており、これを切り離したり、どちらかを弱めることはあってはならない。