台風15号の爪跡が癒えないうちに、追い討ちをかけるように、猛烈な台風19号が駆け抜けて行った。今回は大型で猛烈な雨台風だったため、東日本で現在までに77の河川で氾濫や越水が発生し、多くの被害が出ている。心からお見舞い申し上げたい。日本列島は「台風銀座」とも称され、毎年幾つかの台風が上陸して来たが、最近は明らかにその頻度も強さも、かつてより格段に酷くなっている。
その原因は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書を持ち出すまでもなく、明らかに地球の温暖化にあり、CO2などの温暖化ガスの濃度上昇に起因している。2年前の「気候変動枠組み条約締約国会議(COP)」では、加盟各国がそれぞれ、2030年までの温暖化ガス排出量削減目標を発表し、さらに2050年までにはそれをゼロにするという「パリ協定」を採択したが、世界最大の排出国・アメリカが離脱宣言しており、その実効性に疑問符が付いている。
そうした中、9月下旬の国連総会「気候行動サミット」に招かれたスウェーデンの高校生で、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんは、各国の首脳を前に「私たちはあなたたちを見ている」「すべての未来の世代の目はあなた方に向けられています。私たちを裏切るなら決して許しません」と、眼光鋭く、語気を荒げて演説した。
彼女の演説は各国首脳を圧倒する勢いで理路整然としており、実に天晴れと拍手を送った人も少なくないだろう。しかし本来は、この問題に我々大人が正面から向き合い、力を合わせて真剣に取り組むべきことである。彼女を含め若い人々に心配を懸け、必死な行動をさせてしまっていることを、とても恥ずかしく思わなければなるまい。
実はこのトゥンベリさんの姿には既視感を覚えている。今から10年前にパキスタンのマララ・ユスフザイさんという12歳の少女が、パキスタン・タリバーン運動による女子校の破壊を経験し、それへの怒りと女子教育の必要性をブログで訴えた。その後タリバーンに恨まれたマララさんは、銃撃に遭うも一命を取り止め、翌年国連に招かれて、力強い演説を行った。2014年にはノーベル平和賞を受け、現在は人権活動家として活躍している。
マララさんの時も、女子教育を否定するイスラム過激派に対して、なぜもっと早く、そして強く世界が避難しないのか、多くの人々が疑問を抱いた。彼女の演説と行動は、利害関係を考えてモノが言えない大人、最初から諦めてモノを言えない大人に対する強烈な抗議でもあった。
彼女たちの行動を見て思い起こすのが、1400年代半ば頃の英仏百年戦争で活躍したジャンヌ・ダルクである。わずか15、6歳の時にオルレアン解放の先頭に立ち、仏軍の劣勢を挽回する原動力となった。その後の幾つかの戦いでも軍を奮い立たせ、勝利に導いたのである。時代も状況も全く違うが、純粋さと信念の強さ、人々を導く能力において、相通じるものがあるのではないか。
ジャンヌ・ダルクがかつて示したように、彼女たちが世の中の不正義や矛盾、無責任に喝を入れて、世界を動かすきっかけとなることを、大人の側の反省も込めながら、心から願うばかりである。