はじめのマイオピニオン - my opinion -
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日鉄によるUSスチールの買収

 現在トランプ政権の「相互関税」という嵐に、世界各国が巻き込まれ、日本に対する追加の関税を撤廃させるべく、断続的に閣僚協議を重ね、カナダのG7では首脳会談まで実施したが、なかなか進展が見られず、こう着状態に陥っている。

 一方でバイデン政権から続いていた、日鉄がUSスチールを買収しようとする企てが成就した。関税撤廃ないし引き下げという話とは直接連動するものではないが、その交渉に光を差すものと期待する向きもある。

 USスチールといえば、1950~60年台のアメリカの繁栄を象徴する存在であり、確かに世界の鉄鋼生産のリーダーだった。ところが生産性やコスト、技術革新の遅れなどから、まず日本のそれに遅れをとり、その後韓国や中国にも遅れをとってしまった。

 またアメリカではその他の製造業においても、USスチール同様の衰退を見ることになる。あの輝かしかった自動車産業も例外ではない。そのような産業が集中していた北東部の工業地帯は、ラストベルト(錆びついた地帯)と言われるようになった。

 トランプ大統領が目指している強いアメリカへの回帰は、まさにこのような国内製造業の復権に他ならない。貿易相手国との赤字は、相手国が製造業の分野で比較優位に立ち、自分たちが一方的に被害を受けているという被害意識を持つこととなり、これを解消するために追加関税が課されようとしているのだ。

 日本の自動車メーカーもアメリカ本土に工場を置いているが、日本や周辺国で作った車を輸出しているケースの方がずっと多い。さすればアメリカ本土に早急に工場を作れといっても、簡単にできるわけではなく、完成しても現トランプ政権は終わっているだろう。

 日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化は難航したが、成就の決め手は1兆円を超える投資を行うということ、新たな工場を建設することで10万人の雇用を生み出すということ、アメリカの国家安全保障、経済安全保障の観点から、アメリカ政府に「黄金株」を与え、いつでも政府のコントロールが効くような手段を確保したことが功を奏したという。

 今後の関税をめぐる日米交渉では、あまり時間が残されてはいないが、アメリカ国内製造業の復権のために、日本がどの程度、直接・間接の投資を行えるかがポイントになるはずである。前向きな、思い切りのいい投資を前面に出すべきだ。

[ 2025.06.23 ]