今年4月にリチャード・アーミテージ氏、5月にジョセフ・ナイ氏が相次いで亡くなった。アーミテージ氏はベトナム戦争のゲリラ戦で活躍し、映画「ランボー」のモデルになったとされる人物。ジョージ・ブッシュ政権における元国務副長官も務めた、共和党の良識の人だった。20年以上前に私はお会いしたが、マッチョな体型に似合わず、礼儀正しく丁寧に応対してくれたことが、印象に残る。
一方のナイ氏はハーバード大学院ケネディースクールの中心的教授で、クリントン民主党政権で国防次官補を務めるなど、民主党政権で外交・安保政策にかかわった、これまた民主党のブレーンだった。
それぞれ所属した政党は異なったが、共通点は知日派だったこと、安全保障政策について穏健な考え方の持ち主だったことだ。21世紀の日米同盟関係を展望した「アーミテージ・ナイ報告書」を共同執筆したことでも知られる。
そこで主張したことは、日米安保条約を現在の片務性を維持しつつも、集団的自衛権の一部行使について柔軟に対応することにより、同条約を深化させるべきとの考えだ。我が国の防衛政策にも大きな影響を与えたと言われる。
またナイ氏は同報告書も含めたあらゆる場所で、軍事という「ハードパワー」ばかりでなく、その国が持つ文化や伝統、国民性の魅力といった「ソフトパワー」を外交面で活かしていくべきと主張してきた。これには多くの日本人の琴線に触れたのではないだろうか。
党派を超えたお二人の友情と気高い精神は、まさにアメリカの良識を代表すると言っても言い過ぎではないが、トランプ大統領の破天荒な内政・外交、安保政策の打ち出しと、2人の訃報が相次いだことが重なったのは、歴史の悪戯としか言いようがない。
お二人のご冥福を祈るとともに、我々にはもう一度、アーミテージ・ナイ報告書を読み返す必要がありそうだ。