1月21日(日本時間)、遂にトランプ大統領が戻ってきた。我々は1回目の政権でも様々な驚きと諦めを味わったが、2回目の政権でも、既に戸惑いを隠せないパフォーマンスを始めている。バイデン前政権の大統領令を尽く廃止するとともに、予想されていた気候変動に関するパリ協定や世界保健機構(WHO)からの脱退、不法移民の流入阻止などの命令を、矢継ぎ早に打ち出した。
さらに同盟国も対象とした、米国への輸入に高率関税を課すこと、カナダをアメリカの51番目の州にしたいこと、メキシコ湾をアメリカ湾に変えること、グリーンランドやパナマ運河を買収したいことなど、荒唐無稽とも言える主張を繰り返しており、その一部は大統領の権限で実現可能になりそうだ。
しかし我々は怯んではいけない。1回目の政権の際も、トランプ大統領は常に高めのボールを投げて、相手を翻弄させたのち、落とし所を自分に有利にする、いわゆる「ディール」の手法を多用してきた。また連邦における大統領の権限は大きいが、各州が持つ権限までもねじ伏せることは出来ない。市民権の出生地主義をやめさせる大統領令に対して、幾つかの州裁判所が差し止めの手続きを始めている。
このようにトランプ大統領の脅しは、必ずしも本気のものではなく、その実効性が疑われるものも少なくない。さらに世界秩序を平和裡に守ろうとする同盟国や同志国、G7やクワッド、NATOやEUなど、多国間の協力によって、トランプ大統領の野望に水を差すことは、決して不可能ではない。
2018年6月9日のカナダ・シャルルポワ・サミットにおいては、「自由貿易体制の維持」を確認する合意文書の扱いをめぐって、トランプ大統領と他の6ヵ国地域の首脳が対立し、最終的に後者の主張が通った。その場面の写真には、当時のメルケル独首相、安倍総理、マクロン仏大統領らが、必死でトランプ大統領を説得する様子が写っている。
当時の役者のほとんどは現実外交からは、残念ながら姿を消しているが、このようなトランプ包囲網を作ることは、現在から将来においても可能である。今大切なことはトランプを恐れるのではなく、トランプをよく知り、同志国がいかに結束するかである。