去る10月の衆議院議員総選挙は、自民党議員の一部において発覚した、いわゆる「裏金問題」への厳しい逆風を受けて惨敗し、公明党との連立を組んでも少数与党になった。ただその後、国民民主党との一部政策の合意に至り、部分連合という形で臨時国会での補正予算成立が実現した。
その政策とは言うまでもなく、「103万円の壁」を引き上げ、給与所得者の手取りを増やすことである。103万円とは所得税における年間の給与所得控除額55万円と、基礎控除額48万円の合計額である。年収が103万円を超えなければ、所得税も住民税も発生しない。したがって多くの給与所得者はこの金額を超えないよう、労働力供給を抑制してきた。
国民民主党の主張はこの103万円の水準が導入された1995年当時に比べ、現在は法定の最低賃金が1.7倍強になっているので、103万円を178万円に引き上げるべきと要求した。しかしそうすると。国に入る所得税と地方に入る住民税が、合わせて約8兆円減ることになる。
一方自公の与党は、1995年と現在を比較して物価が1.2倍弱上がっているので、103万円は123万円に上げるのが妥当として、国民民主に回答した。最低賃金は政策的に決めているが、物価上昇率は現実的な経済指標であり、理屈が通るからだ。また税収減は約7000億円程度なので、何とか飲み込める金額だ。ところが国民民主は「話にならない」としてこの回答を拒否、現在も話し合いは続いている。
これまで自民党は政権を担当するなかで、歳出増の多くは恒久財源を探して担保してきた。もちろん緊急を要するときなどは、赤字国債の発行で賄う時もあったが、財政健全化を目指す責任政党として、極力財源を充ててきた。残念ながら178万円を実現するための財源は今までのところ見つかっておらず、178万円の手前で財源手当が可能な水準を模索している。
この臨時国会では補正予算とは別に、政治改革関連法も成立させた。野党の要求も受け入れ、政策活動費の廃止や、政治資金をチェックする第三者機関を国会に設置することが決まった。しかし企業・団体献金のあり方については与野党間でなお隔たりは大きい。国民の自民党に対する不信感はまだまだ根強く、今後も政治改革に汗をかかなければならない。
来年1月24日頃に召集される通常国会でも、なお少数与党として来年度予算の成立をはじめ、重要法案を成立させるために、野党との真摯で丁寧な議論を行い、政策上の一致点を探る努力を続けなければならない。