はじめのマイオピニオン - my opinion -
船田はじめが毎週月曜日に提言するメールマガジン。購読ご希望の方は下記フォームからお願いします。
お名前
メールアドレス
    配信停止申込
韓国尹大統領の誤算

 去る12月3日夜、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は突如「非常戒厳」を宣言し、一切の政治活動が禁止され、国会を封鎖すべく軍隊(戒厳軍)が動員された。しかし多くの市民がこの事態に反発して、国会周辺に結集し、軍も国会封鎖に躊躇した。その結果定数300名の議員のうち、半数を超える180名が国会内に入り、全員が大統領の宣言に反対したため、大統領は6時間余りで宣言撤回を余儀なくされた。

 なぜ尹大統領はこのような暴挙に出たのか。理由としては、今年4月に施行された国会議員選挙で、大統領率いる与党「国民の力」が惨敗し、少数野党となって重要法案が悉く否決されたこと。韓国経済の低迷が続いていること。ご夫人の周囲に幾つかのスキャンダルがあり、その捜査が進捗していること。与党内にも韓(ハン)代表をはじめとして、大統領と距離を取る議員が少なくないことなど、政治的に相当追い詰められた状況にあり、事態打開のためにはウルトラCを使わざるを得ないという精神状態になっしまったようだ。

 今後の展開は予断を許さないが、国会での大統領弾劾案可決、裁判所による審査ののち、罷免されて大統領選挙が行われる可能性が強い。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代の日韓関係は冷え切ってしまったが、尹大統領になって修復が行われ、岸田-尹両首脳が楽しそうに談笑していた姿に安堵した我々も、地獄に突き落とされた感がある。

 韓国では大統領が必要と感じた時は、いつでも一人で「非常戒厳」や「警備戒厳」が発令できる仕組みだ。北朝鮮との休戦状態が未だに続いているという特殊な事情があるからだろう。
 
 一方いま我が国の与党内で、改正憲法に盛り込もうとしている「非常事態宣言」案は、総理大臣がきちんと閣議を開いて決を取り、国会の承認を得て初めて宣言されるという案である。また昨年の憲法審査会でまとまりつつあった、「緊急事態における議員任期の延長」も、まず行政が判断し、衆参両院の特別多数で承認されなければ発動されない仕組みとなっている。今回の韓国の戒厳と我が国で考えられている非常事態宣言は、大きな違いがあることに理解を求めたい。

 いずれにしても今回の尹大統領の行動は、光州事件で全斗煥(チョン・ドファン)元大統領の戒厳令発布以来、30年ぶりの出来事であり、民主化を進めてきた韓国の多くの人々を落胆させたことは、想像に難くない。

 一方では、我々民主主義政治のもとで、非常事態のあり方を考えるチャンスでもある。非常事態は誰がどのような手続きを経て宣言され、どのように停止されるのか、コントロールの手段ををしっかり考えておかなければならない。我が国にとっても大きな教訓を与える事件である。

[ 2024.12.09 ]