これまでもNHK朝ドラはしばしばヒットして来たが、この4月から始まった『虎に翼』は、実に秀逸である。まだ1ヶ月しか経っていないが、視聴率もまずまずらしい。戦前の日本において、女性として初めて法曹界に身を投じた人物の、苦悩と喜びを表現する実話ストーリーである。テーマが法律や裁判、女性の社会進出といった固いイメージだが、分かりやすく、温かく、小気味よく描いているところが、番組人気の秘訣のようだ。
ちょうどこの放送が始まった頃、私は国会に置かれた弾劾裁判所裁判長として、訴追された一人の裁判官に判決を下す役割を担っていた。この事案の裁判は1年4ヶ月、公判回数16回という、戦後最長の裁判だった。守秘義務があるため多くは語れないが、過去の訴追事案は既に判事の非行が刑事罰を受けているケースがほとんどで、弾劾裁判はその証拠を採用して判決を下せば良かった。
しかし今回は刑事罰を受けていない判事を裁くこととなり、証拠調べから採用、各種の尋問もフルサイズで実施するという、本格的な公判手続きを経験した。私は国会議員ではあるが法曹資格は持っていないため、公判には不慣れな点が多かったが、法曹資格を持たれている数名の裁判員(議員)の方々のアドバイスをいただきながら、何とか判決に至ってホッとしている。
『虎に翼』の放送開始と、私が関わった裁判の判決のタイミングが重なり、興味深く鑑賞しているが、主人公が「法律とは何か」「裁判とは何か」に立ち向かい、悩み抜いている姿にとても共感を覚えている。今回の弾劾裁判も裁判官のSNS上での行為が著しく非行に当たるかどうか、前例のない事案だったため、裁判長の私だけでなく、裁判員を務めていただいた国会議員の皆さんも、大変悩まれたと感じている。
裁判官にも与えられている表現の自由という権利と、裁判官として相応しくない行為を、どうバランスを取って判決に結びつけるかが、一番の悩みだった。判決文ではその両方の要素に配慮したため、これまた記録的に長い文章になってしまった。
さらに弾劾裁判というのは、普通の裁判とは違い一審制であること、罷免か不罷免かの二者択一で、中間の量刑判断ができないなど、裁判員を大いに悩ませる要素を内包している。罷免か不罷免かでは天と地の差がある。今回の裁判の経緯に鑑みて、現行の裁判制度を改善すべきかとも考えるが、大変な困難も予想される。当面は現行制度のもとで、公平・公正を旨として慎重な審理を尽くすことが要請されている。