サマリヤ人とは紀元前に、旧イスラエル国の一地方に住んでいたユダヤ人が、アッシリアに占領されて移住してきたアッシリア人との間に生まれた人々を指す。元々のユダヤ人からは異民族として嫌われていたが、この民族を救ったのが、イエス・キリストの「汝の隣人を愛せよ」という、マタイ伝に記されたキリスト教のキーワードである。
さらに強盗に襲われ、瀕死の重症になったゆきずりの人を救ったとするサマリヤ人の善行を、イエスが紹介し、称賛した言葉がロカ福音書にある。これがきっかけで「善きサマリヤ人」という概念が作られ、さらにアメリカなどで導入されている「善きサマリア人の法(good Samaritan law)」につながる。窮地の人を救うために善意の行動をとった場合、救助の結果につき重過失がなければ責任を問われない、という趣旨の法である。
この法によってアメリカなどでは、貧困に陥っている人々への食品の寄付が盛んになった。しかし食品によっては賞味期限、消費期限を超えて手渡されると、健康被害を起こす可能性があるが、この法によって原因者が免責されることとなる。
一方、まだ食べられるのに捨てられている食品が500万トンを超えている我が国において、SDGs運動の一環として、食品ロス削減の取り組みを続けている。その有効な手段として、食品メーカーやスーパーなどがフードバンクや子ども食堂に寄付したり、レストランなどでの食べ残しの持ち帰りなどが推奨される。
その中で仮に問題が発生した際、損害賠償など供給者の責任を問わないか軽減する方策を、消費者庁ならびに、私が会長を務める消費者問題調査会で検討を続けている。これは民法の体系に特例を設ける措置となり、かなりの困難を伴うことが予想される。場合によっては民法改正を行わずとも、食品寄付の環境が改善することを目指していきたい。