ハワイ・マウナケア山頂4200メートルには、日本の国立天文台が誇る口径8.2メートルの、すばる望遠鏡という反射望遠鏡が設置されている。日本の国家プロジェクトだが、世界の研究者に開放されている。1999年のファーストライトの時は、私も現地を訪れた。長く世界一の性能を発揮していたが、今は幾つかの望遠鏡に追い抜かれた。しかし高い稼働率と使い勝手の良さから、高いパフォーマンスを示してきた。
なぜそんな辺鄙なところにと思われるが、澄んだ大気と安定した気流、そして何よりも地上の光がほぼ届かないという好条件だからだ。また衛星に望遠鏡を搭載した、NASAの「ハッブル望遠鏡」が派手な天体写真を発表しているが、捉える視野が狭く、遠隔操作で時間がかかる上、メンテナンスが極めて困難なため、すばるの方がよく働いている。
また現在構想中の「TMT望遠鏡」と呼ばれる口径30メートルの反射望遠鏡は、日本も含め国際共同開発によるものだが、ハワイの先住民の方々との意見が折り合わず、計画が数年止まっていた。まもなく建設始まるが、完成までにはかなり時間かかるため、もうしばらくはすばる望遠鏡のパフォーマンスに頼らなければならない。
ところがすばる望遠鏡において、先日メンテナンスを実施していたところ、機材を鏡面に落として鏡面に傷をつけてしまうというアクシデントが発生した。修繕に数ヶ月から半年かかるという。観測を予定していた内外の研究者に失望が走った。これまで毎年のように周辺のメンテナンスに予算をつけ、観測環境の改善に努めてきた私としても、極めて残念でならない。1日も早く観測の空白を埋めなければならない。
すばるは国立の研究機関だが、多くの国から観測者やスタッフを集めている。現場の声を聞くと彼らを束ねていくのは容易ではないという。しかしかつての日本の研究者やスタッフは、和を重んじる人間性によって、多彩な集団をうまくまとめ上げてきたはずだ。今それができない日本人は、人間力が弱ってきているのではないか。すばるの故障以上に、その人間力の低下に懸念を抱く昨今である。