今から30年ほど前にエジプト、トルコ、イスラエル各国を、自民党青年局の中東視察団長として訪問したことがある。最も印象に残ったのはエルサレムの旧市街である。ここには世界3大宗教の聖地が隣り合わせのようになっている。ユダヤ教の「嘆きの壁」、壁の向こう側にイスラム第3の聖地「岩のドーム」、その北西にキリストの墓とされる「聖墳墓教会」がある。1平方キロメートルの中にこれらが所在するという、とても複雑で微妙な場所という印象だった。
歴史上でも複雑だが、近代に至ってから一層複雑さを増す出来事が起こった。ユダヤ人のドイツでの迫害、ホロコースト、シオニズム運動の高まり。さらにはイギリスがユダヤ人とパレスチナ人に、それぞれ有利な2重約束したことを発端としたパレスチナ問題が発生。数次にわたる中東紛争が起こってしまった。アメリカのマスコミはユダヤ系が多く、親イスラエルの代表格となった。
今回の戦闘は、ガザ地区を実効支配しているイスラム武装組織ハマスが、直接イスラエルに対してミサイル攻撃したことに始まる。しかしイスラエルは、正当防衛以上の地上戦への拡大を示唆している。犠牲者かさらに増えることを懸念する。一般のパレスチナ人の生命や人権を保証する、人道回廊を早急に確保しなければならない。
なぜこの時期に紛争が起こったのか。まずは昨年来のロシアのウクライナ侵攻で、武力行使のハードルが低くなったことだ。またアメリカの仲介により、イスラエルと中東の有力国サウジアラビアとが関係を改善しつつあり、ハマスはパレスチナの現状が固定されることに焦りを感じていたし、アメリカを敵視するイランが、ハマスをけしかけたとも考えられる。いずれにしても微妙なバランスに乗っているこの地域の特殊性を、あらためて浮き彫りにした形となった。
世界はこの状況に知らん顔をしてはいけない。特に国連は我が事として早速動き出さなくてはならない。地上戦に至らないようにイスラエルを宥めなければならない。これまで長きにわたり多くの政治家が中東の和平のために汗を流してきた。これを無駄にすることはいけない。紛争の根本を正すことは無理としても、本格的な武力行使に至らないような、安全装置を作らなければならない。
我が国はこれまで、独自のエネルギー外交を続けてきた歴史がある。中東諸国との関係もアメリカとは一味違ったものがあった。アメリカは今、感情論に流れる傾向が強くなっている。こういう時こそ、日本はアメリカの裾を引っ張り、戦闘の拡大や憎しみの連鎖を断ち切る勇気を持つべきではないか。