はじめのマイオピニオン - my opinion -
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企業のコンプライアンスと公益通報者保護制度

 企業活動やその価値を推し量る指標として、E(環境)S(社会)G(統治)、いわゆるESG指標が注目されるようになり、それを基準としたESG投資も盛んに行われている。特にガバナンス(G)は企業にとって大切な指標であり、17年前からスタートした公益通報者保護制度の社内整備状況も、Gを構成する一つの要素である。

 車のボディに故意に傷をつけ、保険の不正請求を繰り返していたビッグモーターの映像はは、とても衝撃的であった。同社の外部弁護士からの情報としては、内部告発があったにもかかわらず、揉み消された形跡があるとのことだ。

 同社には公益通報者保護制度に適う窓口や内規がなかったようだが、問題が発覚しそうになって慌てて整備したフシがある。それがきちんと整備されていたら、もう少し早く不正が明るみに出たのではないか。同法を所管する消費者庁は、同社に報告徴収を課して返答を受けたが、十分な対応ではなかったようで、6ヶ月後にあらためて報告させるという行政指導を行なった。

 ビッグモーターに絡む消費者被害の相談件数は、思ったほど多くはない。また相談内容も中古車販売に関するトラブルが過半を占めている。今回発覚した損害保険の不正請求は、消費者には分かりにくく、更新時の保険料アップがあって、初めて気付かされることが多い。それだけにビッグモーターのみならず、損保ジャパンの罪は大きいと言わざるを得ない。とうとう損保ジャパンの社長が辞任に追い込まれる事態となった。

 公益通報者保護制度は、決して会社に対する個人的恨みとか、経営権の奪い合いとか、根拠のない噂を助長するものではない。客観的根拠に基づき、消費者や社会などの公益に対して、損害を与える可能性の高い事案を、内部からの通報によって事前に防ぐことを目的としている。だからこそ「公益」という冠が付いているのである。

 制度がスタートしたのは平成18年だが、この間の適用事例は数件に過ぎない。本来、適用事例は少ないに越したことはないが、この間にも日産自動車の完成検査や、日野自動車のエンジン検査において不正が発覚している。制度がきちんと機能していて、内部通報が行われれば未然に防げたか、大規模な不正には至らなかったかも知れない。大変残念である。

 昨年は法改正を行い、通報者に該当する人物の拡大や、保護要件を拡大して、使い勝手の良い制度にしたが、まだまだ不備な企業も多い。制度が整備されていることにより、企業の価値が上がることは間違いなく、真剣に取り組むべきである。

[ 2023.09.11 ]