はじめのマイオピニオン - my opinion -
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神宮外苑とその周辺における再開発事業の一旦中止、抜本的変更を求める

 私は宇都宮市とともに、国会へも便が良い南青山に長年住んできた。神宮外苑もほど近いこの辺りは、ヘアサロンやファッション・ブランドが数多く出店しているものの、誰しもが節度と良識を共有しているお蔭で、まだまだ閑静な住宅地の装いを保っている。
 絵画館前の銀杏並木は愛犬の散歩道であるとともに、黄葉の時期などは国内外から多くの観光客が訪れる、国内有数の観光スポットで、その自然環境と文化は世界中の人々から愛されている。

 しかし2020東京オリンピックが終了するや否や、この地に大規模な再開発の波が押し寄せて来た。計画は以前から水面下で進められて来たようだが、今年の年初から急に表面化した感がある。土地の付加価値を増すために、再開発を行うこと自体はやむを得ないとしても、この度の再開発事業は様々な問題を抱え、明らかに地域の価値を失墜させる。事業の一旦中止と抜本的な計画変更を求めたい。

 問題点としては凡そ次の諸点が挙げられる。

1.この度の再開発では、神宮外苑の樹木のうち約1,000本が伐採されるという。しかしこれらの樹木の多くは、大正時代に日本各地から集められ、全国の青年団をはじめ、多くの人々の奉仕により植えられたという歴史を持つ。自然が破壊されるばかりか、明治天皇、昭憲皇太后を慕う当時の国民の心を蔑(ないがし)ろにする企てと言っても過言ではないだろう。

2.再開発計画では現在の神宮球場と秩父宮ラグビー場の設置場所を交換する形だが、新しい球場のライト側スタンドの壁が銀杏並木の8メートル手前まで迫り、しかもその壁は20メートルにも達するという。これほど近い場所で基礎の掘削が行われれば、銀杏の根に影響が及ぶばかりか、陽当たりも悪く風も通らなくなって樹木を痛め、何より多くの人々に愛されてきた銀杏並木の景観は完全に損なわれる。

3.本来、神宮外苑周辺は景観の維持のために建物の高さ制限が厳しかったが、今回の計画では大手商社ビルが現在の90mから190mに建て替えられる。また秩父宮ラグビー場の跡地にデベロッパー所有の185mの超高層ビルが建つ予定だ。空中権の移転を最大限に活用した手法により、違法とは言えないものの、常識を遥かに超えている。こうしたウルトラXとも言える空中権の移転が、当局からすんなり認められてしまった背景には、特別な政治力が働いたと考えるのが自然である。

4.これらの超高層ビルは神宮外苑の景観を台無しにするばかりか、住民の生活環境や安全性を著しく害する。現在でも大手商社ビルの周辺では「ビル風」が酷く、強風の日には高齢者や子どもたちの歩行は難しく、信号待ちの車体が浮くことすらある。増してやその倍の高さのビルが建つとなれば、どんなビル風防止対策を講じたとしても、歩行者はもちろん青山通りを通行する自動車にすら危険が及ぶことは想像に難くない。

5.神宮外苑からは少し離れるが、同じデベロッパーが青山3丁目の国道246号沿いに、150mの超高層ビル建設計画をつい最近発表した。既にこの隣接地には高さ100mの音楽プロデュース事務所が建っており、風の強い日にその周辺を歩く際は余程気をつけなければならない。その1.5倍の高さの超高層ビルが建つ周辺には多くの低層住宅が隣接し、道幅はごく狭い。風や日照、景観など様々な点で、周辺住民は劣悪な環境を余儀なくされることとなる。

 なお国道246号をさらに南東に走れば渋谷になる。渋谷は交通の要衝であり、都内でも名だたる繁華街である。ここに超高層ビルが建つことは地域の価値や利便性を向上させるかもしれないが、神宮外苑や青山・表参道はまったく違う。超高層ビルが出現すれば、その価値は一瞬で瓦解する。
 “神の座(おわ)す処”ならではの静けさと落ち着き、自然環境と文化の豊かさを評価され、世界中からハイブランドが出店し、多くの人々が訪れるこの地に、超高層ビルが立ち並ぶ光景を、誰が望むだろうか。おそらく明治神宮の神様も望んではいないだろう。

 再開発計画は既に認可され、着工を待つばかりになっていると聞く。しかし凡そ100年前に多くの人々の力によって造営された明治神宮とその外苑が、金と政治の力により汚されることはあってはならない。今からでも遅くはない。再開発関係者には計画を一旦中止しての再考と抜本的変更を強く求めなければならない。

[ 2022.09.19 ]