今年のノーベル賞では2年ぶりに日本人が選ばれた。プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎博士であり、日本の受賞者としては28人目、物理学賞としては2015年の梶田隆章博士以来の快挙である。これまでは素粒子論など理論物理学の分野が多く選ばれてきたが、真鍋博士の研究は応用の分野で大変珍しい。
地表から高空の大気の動きや海洋の動き、太陽からの熱の収支などの要素を取り入れた、「大気海洋結合シミュレーション」を構築し、一定割合を超えたCO2が地球温暖化を招くことを、1960年代という昔に初めて指摘したのである。この理論がのちの気候変動枠組み条約や政府間パネルに大きな影響を与えたことは言うまでもない。
しかし今なぜ真鍋博士の受賞につながったかといえば、その研究そのものが先駆的で稀有な研究だっただけでなく、温暖化防止に後ろ向きや懐疑的な国家元首の存在に対して、選定機関であるスウェーデン王立科学アカデミーの警鐘とも言える強いメッセージなのかも知れない。
さらに真鍋博士は若くして渡米し、日本に帰ることを考えなかった理由を、記者会見で次のように語った。「日本の研究社会は同調圧力が強く、自分は自由に研究できる米国を選んだ」「当時は開発されたばかりのコンピュータを好きなだけ使わせてくれた」という言葉は、日本の研究の研究環境の弱点を痛切に指摘している。
我が国の科学技術イノベーションの振興に微力を注いでいる私としては、真鍋博士の言葉を重く受け止め、大学研究室のあり方や若手研究者のポスト不足、資金不足など抜本的に改革しなければならないと、強く認識させられた。