今年も卒業式シーズンがやってきた。我が作新学院高校の卒業式も3月1日挙行される。今年の高校卒業生はコロナ禍により、2年生の締めくくり時期が臨時休校となり、3年生になっても4月、5月は休校が続いた。休校中はいわゆるオンライン授業を急拵えで準備したが、立ち上がったのか5月の連休中、しかも教員も生徒もなかなか慣れなかった。ただオンライン授業形式に本格的に取り組んだ、最初の世代となったことは事実。対面授業は6月からようやく立ち上がった。
更に遅れ回復のため、夏休みを2週間に短縮して、暑い中汗を流しながら補講に取り組んでくれた。しかし生徒たちにとって最も苦しかったのは、インターハイや全国大会か軒並み中止になったことではないか。夏の甲子園大会もなくなり、作新野球部も県大会10連覇に挑戦させてくれなかった。大会などでの公式記録がないため、大学進学のスポーツ推薦もうまく機能しなかった。受け入れ側も一定の配慮はしてくれたが、希望の大学に進学できなかったケースも少なくない。
しかしそれ以上に卒業生が苦しんだのは、達成感が得られなかったことだ。県単位の代替大会など競技団体ごとの工夫はしてくれたが、全国大会につながる試合とそうでないものでは、雲泥の差があった。高校3年生にとっては「不完全燃焼」の年になってしまった。多くの指導者からは「これまでの練習は決して無駄ではなかった」とか「この経験は必ず君たちの将来に役立つはず」、「君たちのスポーツ人生はまだ始まったばかりだ」などと必死に励ましの言葉が寄せられたが、果たしてどれだけ生徒たちが励まされたかは分からない。
こうした中、私も院長として卒業生に言葉を贈らなければならないが、とても悩んでいる。多くの指導者が述べたような、励ましの言葉に尽きるのかもしれない。しかしもう少し生徒たちの気持ちに、寄り添うことはできないのだろうか。ただ慰め励ますだけではなく、現実を直視した上で問題提起をする形で、次のような趣旨で語りかけたいと思う。
『諸君の最上級生としての1年間は散々だった。学習も遅れがち、自己の実力や練習の成果を最大限に発揮すべき機会も失った。友だちとの絆を確かめ合う重要なチャンスも逃してしまった。学校や教員はできる限りの挽回を図ろうと必死になったが、残念ながら本来の軌道に戻すことはできなかった。だから君たちはある意味でハンディキャップや課題を抱えたまま、今日の卒業式を迎えた。しかし君たちはこれからの長い人生の中で、この不完全な1年を取り戻す可能性がある。努力を怠れば1年の遅れはそのまま残るだろう。
しかし努力をすれば遅れを取り戻すことが出来、上手くすれば更に前に進めることが出来るかも知れない。小さくかがみ込むことが、大きくジャンプすることにつながるように。君たちにとってはこの1年が、ジャンプのための縮込みだったと思って欲しい。私は必死で遅れを取り戻そうとし、より大きくジャンプしようとしている君たちを惜しみなく応援して行きたい。
私たちがやらなければならないことは、今回のコロナ禍を教訓として、君たちが経験してしまった不完全燃焼や達成感の欠如を、後輩の生徒たちに絶対に味わわせてはいけないということだ。君たちが今後、自己の努力によってどこまで挽回していけるか、後輩たちといつまでも注視していきたい。君たちの今後の努力にいつまでも声援を送りたい。』