アメリカ大統領選挙の帰趨がバイデン元副大統領勝利に傾いて来た先週、菅総理はすかさず日本が2050年に「カーボン・ニュートラルを目指す」と宣言した。「カーボン・ニュートラル」とは地球温暖化の主因であるCO2の排出量を、トータルでゼロにするという意味だ。バイデン氏が大統領になれば、トランプ大統領が離脱を宣言した「パリ協定」に復帰するばかりでなく、温室効果ガスの大幅な削減を打ち出す可能性が高く、そうなる前に日本が先手を打って、国際世論にアピールする必要性を察知したためだろう。
CO2排出量をトータルでゼロにするということは、排出量から森林が吸収するCO2の量を差し引くということを意味する。実際の量は測れないので理論値で推定するしかないが、意識的に森林を守ることが目標達成には大切な手段となる。また温暖化ガスの排出権取引きという手段もあるが、取引きのための市場が未整備であるだけでなく、「排出できる量を買う」という行為は、CO2をゼロにするという理念とは相容れないものがあり、その活用には疑問符がつく。
日本は高度経済成長期に酷い公害に悩まされた。その反省から環境技術を磨き、一時は世界でも有数の環境大国、環境技術大国になった。ところが2011年の東日本大震災で原発の稼働がゼロとなり、安全基準の厳格化や立地地元の反対などにより、再稼働が一部にとどまっている。それを代替すべき再生可能エネルギーは、場所の制約や技術開発の遅れ、送電網の脆弱さから、拡大が遅れている。コストが比較的低い石炭火力で電力不足の急場を凌いで来たが、環境NGOなど国際社会から非難されている。
我が国のCO2排出構成は電力(エネルギー転換)は40%、産業部門が25%、運輸関係が17%、残りが家庭などからの排出である。最も排出量の多い電力部門を見てみると、日本の現在の電源構成(エネルギーミックス)は、化石燃料(石炭、LNG、石油)75%、原発6.5%、再生可能エネルギー(水力含む)18.5%となっている。2030年度には安全性が確認された原発20~22%、再生可能エネルギー22~24%、残りを化石燃料で賄うことが、エネルギー基本計画で見込まれている。これにより2030年のCO2排出量を2013年に比べて26%削減することを表明したが、削減幅が小さ過ぎると、これまた国際世論から批判を受けた。
2050年にカーボン・ニュートラルを達成するためには、電力需用量は全て再生可能エネルギーと、安全が確認された原発で賄わなければならない。また産業部門や家庭での省エネや脱炭の徹底、電気自動車(EV)や水素エネルギーの活用が不可欠である。また天候などに左右される再生可能エネルギーの安定供給のために、大容量の蓄電設備の開発など、多くの課題が山積している。これに対しては不退転の決意で、そしてまさに国家プロジェクトとして取り組まなければならない。