先日は自民党宇宙・海洋特命委員会にて、宇宙開発関係予算の令和3年度概算要求の報告を聞いた。それによると文部科学省の2809億円を筆頭に、合計5440億円と初めて5000億円の大台に乗ることとなった。2年度が補正も含めて3652億円だったので、なんと49%もの増要求である。
その主な要因はアメリカNASAが進める「アルテミス計画」に本格参加する費用として、810億円が上乗せされたからである。この計画はまず、月の周回軌道にステーションを配置する「ゲートウェイ構想」を皮切りに、ここを拠点として有人による月面での資源開発、さらには火星探査へと、深宇宙への人類の挑戦を試みる計画だ。
アポロ計画による人類の月着陸から半世紀が経ち、新たな宇宙への挑戦が始まるとなると夢が大きく広がるが、一方で乗り越えなければならない現実の課題にも直面する。
その一つが宇宙開発の利益がどこに帰属するかである。1967年に発効し我が国も批准した宇宙条約では、①宇宙空間の探査・利用はすべての国のために ②いかなる国も宇宙の領有権を主張出来ない ③宇宙の平和利用の原則 ④自国によって行われる活動については国家が国際的責任を負うなどの内容であり、1958、9年に発効した南極条約になぞらえたものである。
しかしながら実際に探査し資源開発を行なった国が、その成果物を独占的に利用し保有する権利があると主張したらどうなるのか、現行の宇宙条約だけでは決められないのではないか。未だ曖昧な点も残されているため、早急に条約上の解釈を確定するか、新たな法整備が必要になるかも知れない。
次は技術的な問題だが、我が国の主力ロケットで打ち上げ成功率の高いH2の後継機であるH3が、先の燃焼試験で不具合が見つかり、設計の変更を迫られているようだ。ロケットは宇宙開発のイロハのイであり、我が国の工学技術の最先端を行くものだ。国の威信をかけても完成させなければならない。
さらに宇宙開発には、安全保障と表裏一体の側面がある。JAXAと防衛省が共同で対象しつつある「宇宙状況監視(SSA)」がそれである。人工衛星の残骸などスペースデブリ(宇宙ゴミ)を常時監視して、稼働している衛星に衝突しないようにするのが主な目的である。しかし同時に、アメリカとの連携協力のもとに、他国の偵察衛星の行動を監視するなどの活動も含まれ、民生と軍事の境目が曖昧になってしまう。この辺りの節度や仕切りもしっかりしておく必要がある。
将来の宇宙開発に希望の待てる予算概算要求だが、まだ要求段階なので、年末の予算編成では強力に後押ししなければならない。同時にこれらの課題にも取り組まなければならない。