かねて重病が伝えられていた中華民國台湾の李登輝元総統が、遂に亡くなられた。97歳というご長寿であった。中華民國の世襲総統であった蔣経国氏の後を継いで、総統職に就任。台灣の民主化に執念を燃やし、在任中に総統公選のための憲法改正を実現したのちも、初の総統選挙に出馬して勝利した。
元々は国民党の重鎮だったが、台灣の民主化や独立路線に舵を切り始め、気が付いた時には、民進党の後ろ盾となっていた。退任後の総統選挙では国民党の連戦候補を応援したが、政権交代後は陳水扁政権を後押し、さらに蔡英文現総統をを育てあげた。このような経緯によりニューズウィーク紙からは「ミスター・デモクラシー」という賞賛が与えられた。
戦前は京都帝国大学農学部に留学したが、途中で日本陸軍に従軍して終戦を迎えた。戦後はコーネル大学で農学博士を取得したが、第二の故郷とも言える日本や日本人のことを、常に尊敬していた。私も数回、直接お目にかかる機会に恵まれたが、いつも戦前の日本による台湾統治が首尾よく行われたことを語ってくれた。特に金沢出身の八田與一という水利技術者が、台湾南部の灌漑事業に尽力し、当地を優秀な穀倉地帯に変えてくれたことを熱っぽく語っていた。「命の恩人」とも評価していたことが印象に残っている。
李登輝元総統はただ親日家であるばかりでなく、将来の日本の役割にも期待し、常に激励してくれた。日台の友好はもちろんのこと、日台の絆はアジアの平和と発展に必ず寄与すること、日本がアジアのリーダーとしてもっと積極的な役割を果たすべきだと、口角泡を飛ばして話してくれた。今度は我々がそれに応える番である。
あらためて衷心より哀悼の意を表したい。