はじめのマイオピニオン - my opinion -
船田はじめが毎週月曜日に提言するメールマガジン。購読ご希望の方は下記フォームからお願いします。
お名前
メールアドレス
    配信停止申込
検察官の定年延長には慎重な議論を

 今国会の重要法案の一つである国家公務員法と検察庁法の改正案が、衆議院で大詰めの審議を迎えている。一般の検察官の定年延長は、国家公務員の定年延長と同じで、何ら問題はない。検察官も国家公務員と同様、健康寿命の伸長に伴い長く勤めていただくことは、国家にとって大変有用なことである。

 しかし検察官の役職定年の延長特例については、そこに法務大臣や内閣の判断が関わるのであれば、内閣にとって都合の良い役職検察官の定年延長は認め、それ以外は認めないという現象が生じる可能性が排除できない。

 現に法案提出前の1月に、政府は黒川・東京高検検事長の定年を約半年延長する閣議決定をした。稲田・現検事総長の退任後に黒川氏を就任させる布石ではないかと騒がれた。30数年前の国会答弁で「国家公務員幹部の延長規定を検察官には適用しない」としていたことを覆した決定だが、「解釈を変更した」という説明に留まる。この度の法改正によって黒川問題もオーソライズされることとなる。

 確かに検察官も行政官であることには変わりはないが、他の行政官とは違い、内閣の不正も追及し得る、大きな権限と独立した権限を有している。司法・行政・立法が緊張感を持って監視しあうという、三権分立の統治機構の大原則がありながら、行政イコール内閣に都合の良い幹部検察官を誕生させることは、その一角を崩す行為に等しいのではないか。

 そもそも現内閣は、これまでも行政の各部門にその権限を拡大して来た。その典型は内閣人事局の発足と、人事局長の属性である。原案では人事局長は事務の官房副長官を充てるはずだったが、いつの間にか政務の副長官になってしまった。これにより各省庁の幹部人事では、官邸が気に入る人が選ばれ易くなり、官僚は国民でなく官邸を見ながら仕事をするようになった。今回の検察官定年延長問題も、この流れに沿ったものかも知れない。

 もちろん幹部検察官の定年延長について、難事件や継続案件の処理に欠かせない優秀な人材を留め置いて、適切な検察行政を行うと言った公正・中立な見地から閣議決定をすると、政府が明確に説明すれば良いのだが、未だこのような説明を聞く機会が与えられていない。

 いま政府は新型コロナウイルス感染症対策に追われている状況だ。しかし時間がないからといって丁寧な説明と議論の機会を制限して、強行的に議事を進めることは民主主義国家として相応しくないし、国民世論をないがしろにする所業ではないか。

[ 2020.05.14 ]