今から8年前の2010年、JAXAが打ち上げた小惑星探査ロケット「はやぶさ1」が、数々のドラマを生み出しながら地球に帰還した。小惑星イトカワへの着陸に失敗したあと、わずかなサンプルを持ち帰る途中、アンテナやエンジンのトラブル行方不明になった。奇跡的にも数年後に見つかって無事ミッションを終えた。その時の経緯がまさにドラマとなって、さらに多くの々に感動を与えた。
今回の「はやぶさ2」は小惑星リュウグウを目指しての長旅だったが、今のところミッションは極めて順調に進んでいるようで、リュウグウの岩だらけの地表が鮮明に撮影されていた。実は地球とリュウグウとの距離は2億8000万キロもあり、月への距離のなんと750倍ほどで、日本からブラジルの直径6センチの的を射るような正確さが求められる。
これだけ離れていると電波も15分以上かかり、「はやぶさ」にある動作を指令しても、その結果が分かるまで30分待たなければならない。この時間差を考えながら作業しなければならないのだ。これだけの遠距離の航行技術と遠隔操作の技術は、我が国の基礎科学の優秀さを如実に示している。
一方でこのような探査をして、我々の生活に役立つのかと言った意見に遭遇することがある。確かに小惑星から持ち帰るであろう岩石を分析することにより、太陽系や地球の成り立ちや地球生命の起源が、少しづつ分かってくることが期待されている。直ぐには役立たなくても、やがては人類の価値観を変えたり、人類の生存を助けるかもしれない。そんな大袈裟でなくても、フライバイ航法やリモートセンシング技術の高度化には、必ず貢献しているはずである。
余談だが、「はやぶさ2」のミッションマネージャーは、我が栃木県の栃木高校卒の吉川真JAXA準教授が務めている。ミッションが順調に行きすぎると、「はやぶさ1」のようなドラマは生まれないかもしれないが、学術的には大きな成果を挙げることが期待される。心から応援したい。
最近の我が国の科学技術振興策は、やや応用科学に重きが置かれ、基礎科学の比重が軽くなりつつある。「直ぐに役立つものは直ぐに役立たなくなる」という格言もある。また基礎科学の土台なしに応用科学が盛んになっても、それは砂上の楼閣に過ぎない。「はやぶさ2」のミッションの成功とともに、我が国の基礎科学が勢いを取り戻すことを願って止まない。