この数日間トルコのリラが暴落している。トルコ国内で拘束されたアメリカ人宣教師をなかなか解放しないとして、鉄鋼やアルミなど輸入品に上乗せ関税をかけるという、制裁を加えたことが直接の原因だ。「同盟国なのに何故だ?」「NATO加盟国なのにどうして?」という疑念が世界を駆け巡り、実態以上にトルコリラの価値が下がっているのである。
トルコはアメリカにとって、中東で最も信頼してきた国だ。同様に信頼してきたサウジアラビアとの関係がギクシャクしている中では、その存在はさらに重みを増していたはずだ。両国関係の急速な悪化には、 アメリカ側に2つの理由があると指摘されている。
一つは中東政策の「つまづき」である。7、8年ほど前にこの地域で民主化の波が押し寄せ、「アラブの春」と言われた。いくつかの独裁的政権が倒れたのだが、この動きを過大視したオバマ政権が民主勢力に肩入れし過ぎたため、かえって中東に混乱を招いたと言われる。このような一連の動きが、トルコのアメリカへの懐疑心を高めた可能性が高い。
もう一つは中東政策の「方針転換」である。トルコはISの掃討とシリアのアサド政権打倒において、アメリカと協力関係を築いてきた。ところがアメリカはクルド人勢力を利用して、ISを封じ込める作戦を採用した。トルコとイラクの国境周辺に住むクルド民族の存在は、トルコを常に悩ませてきたという歴史がある。 アメリカの作戦に反発して、トルコはロシアに接近し、イランとも近づいているという情報もある。
先般、再選を果たしたエルドアン大統領は、以前に比べて大変強権的に変容し、思想抑圧や人権侵害にも手を出すようになってきた。このことにもアメリカは警戒し始めているが、中東の優等生で第一の親米国が混乱していることは、中東情勢全体を極めて不透明、不安定に陥れてしまった。だからこそ経済の実力以上に、トルコ・リラの価値が下がり続けているのだ。
さらにトルコの混乱は、新興国全体に波及している。彼らの対ドル通貨価値の下落は、多額の債務返済をより困難にしている。手を拱いていると、リーマン・ショック以来の混乱を招きかねない情勢である。あの時はアメリカが必死になって世界経済の大混乱を食い止めたが、今回トランプ政権は動こうとしない。国際社会全体が動かなければならない。