「たかが野球、されど野球」というセリフはかつて怪物と言われた江川卓氏が、また最近では野村克也氏が好んで使う言葉である。野球というスポーツはサッカーやバスケットボールなどと比較しても、より多くの日本人に愛され、「国技」と言っても言い過ぎではないだろう。先のセリフもそのことを図らずも表現している。
我が国で2001年から導入したスポーツ振興投票制度、すなわち「サッカーくじ」は発足間もないJ1の試合の一部の勝敗を予想し、その当たり具合で賞金を送る仕組みだ。イタリアをはじめ欧州では馴染みの「トトカルチョ」をモデルとしているが、売上金の一部をサッカーのみならず、多くのスポーツ選手の強化や、地域スポーツクラブの育成に充てている。
サッカーくじ法案は議員立法により1998年に成立したが、当時私も提案者の1人として国会で答弁に立った。苦労したのは、小さなファンが多いサッカーを対象としてお金を賭けることは、教育上如何なものか。あるいは射幸心を煽ることにより、いわゆるギャンブル依存症に陥る人が増えるのではと言った、PTAや教育委員会などからの反対が寄せられたことだ。そこで当初の案より当選確率を低くしたり、19歳未満には販売せず、原則は対面販売とすることなどの修正を加えて、ようやく成立させることができた。
販売当初は年間600億円程度と売り上げも上々だったが、次第に当選確率が低く過ぎたり、勝敗の予想が難しすぎるため、200億円程度に落ち込んでしまった。その後機械で自動的に予想させたり、TOTO/BIGなどキャリーオーバーを導入した高額の当選金を用意して、ようやく600億円、そして最近は1000億円近くまで売れるようになった。
さてここに来て自民党スポーツ議員連盟などが、スポーツに振り向ける資金が慢性的に不足しているため、国民的スポーツである、とりわけプロ野球のペナントレースの一部の試合を対象として、サッカーくじと同様の制度を導入してはどうかと、野球関係者に強く促している。私も幾つかのスポーツ団体の会長を務め、その一層の振興が重要なことは痛感しているが、かと言ってプロ野球にくじを導入することには反対せざるを得ない。
何故なら、対象となる野球は最初に述べたように、日本人にとって国技のような存在であり、サッカーとは比べ物にならないほど多くのファンを擁していること。高校段階の全国大会の会場においては、野球の甲子園、ラグビーの花園、サッカーの国立競技場を比較しても、注目度は圧倒的に甲子園である。くじの対象となると、教育上の悪影響はサッカーの比ではない。一方、最近でもプロ野球関係者内外において違法な賭博が発覚したことがあり、そのイメージが払拭されていないことも懸念材料だ。
さらにはプロ野球くじにファンが流れることも予想され、サッカーくじや自治宝くじの売り上げが落ちたり、その他の公営ギャンブルの売り上げにも影響を及ぼすことは必至だ。我が国初のカジノの始動も控えており、これ以上くじやギャンブルが増えることは、我が国の穏やかで秩序ある良好な社会環境を乱すことになりかねない。一考を要する。