5年という任期満了を迎えた黒田東彦日銀総裁の再任案が、国会に示されようとしている。また新たな副総裁には、リフレ派論客の就任も取り沙汰されている。安倍政権はマイナス金利も含めた異次元の金融緩和策の継続を、内外の市場にアナウンスするつもりだ。確かに日本経済は黒田総裁の元で進めてきた緩和策により、バブル崩壊後の長期のデフレ状況から脱しつつあり、アベノミクスの効果を下支えている点は評価されるべきだ。
しかしながら人口減少や消費傾向の弱さなどから、デフレ圧力を押し返すだけの力強さに欠け、経済成長率や物価上昇率も当初の目標には未だ到達していない。その一方で、低金利の継続により銀行の財務状況が悪化しており、リスクを冒してまで積極的な貸し出しをしようとしない。欧米各国とも既に金融緩和からの出口を探り始めているのに対して、政府・日銀の出口戦略がなかなか見えてこないのは懸念材料である。
今から20年も前の、平成10年の日銀法改正においては、バブル崩壊を招いた金融政策の反省や、通貨統合のために中央銀行を当該政府からの独立性を目指した欧州の例に習い、「独立性」と「透明性」がキーワードだった。具体的には、政府が日銀の政策決定に関わる政策委員会メンバーを辞めさせられないことや、決定会合の会議録の速やかな公表などである。
しかし一方で政府は、必要に応じ金融政策決定会合に出席できるほか、議案を提出することが出来、また議決の延期を求めることが出来る(新日銀法第19条)という制度が採用された。もちろんこれらの制度を、時の政府が節度を持って運用すれば何の問題もないが、政府が強い意図を持って政策に介入する手段を持っているという状況は、冷静で適切な政策を歪める可能性を孕む。
現時点で私は日銀の政策決定が歪められているとは思わないが、今後出口戦略を巡ってそうなる危険性を否定出来ない。そうならないためには、政府と日銀が対等な立場で政策対話をすること、またそうした環境を構築すること。あるいは日銀自身が意図的に一定の距離を置いて行動することが、重要なポイントになるだろう。