アメリカ大統領予備選挙も後半になったが、未だトランプ旋風が吹き止まず、今月初めには共和党右派のクルーズ氏、同党穏健派のケーシック・オハイオ州知事が相次いで離脱してしまった。これでトランプ氏の共和党大統領指名獲得は、必至の状況になった。一方の民主党はクリントン氏がサンダース氏に水をあける勢いとなり、ほぼ大統領候補指名を受ける状況となった。この結果、秋の大統領本選挙は、トランプ氏とクリントン氏で争われる見通しである。
トランプ氏はこれまで、ヒスパニック系市民などのマイノリティを侮辱したり、「イスラム教徒をアメリカに入れるな」などと、問題発言を繰り返して来た。従来のアメリカ社会では「異端」として支持されなかったが、今回は弱いアメリカとなってしまった現状に飽き足らない市民の心を、一定程度つかんでいる。「強いアメリカの復活」という彼の殺し文句は、かなりの支持を受けている。
大統領本選挙では、今のところクリントン氏の方が有利だと世論調査は示しているが、今後の風向きでどうなるか分からない。特にトランプ氏が大統領になったら、世界にとっては大きな不安が生じるだろう。特に安全保障政策において、彼は「米軍の駐留先の国々が応分の負担をしろ」いや「全額負担をしろ」という、過激な主張をこれまで繰り返している。
日本国内に駐留する米軍の年間の費用は、約6000億円であるのに対して、日本側の「思いやり予算」即ちホストネーションサポートは年間約2000億円である。他にもSACOや米軍再編費用、用地借り上げ費用などで、約5000億円払っている。今やアメリカは「世界の警察」を演じ切れないところまで来ているが、ロシアや中国などの潜在的脅威に対して、アジア地域の安定、ヨーロッパの安定を創出する力を有しており、そのことが必ずアメリカの国益にも叶うという前提で、それぞれの地域における駐留が行われてきた。世界の安全保障のためのアメリカの立場は、費用負担やソロバン勘定は二の次だったはずである。
またトランプ氏は、特に日本に対して、アメリカが日本を守る義務を持つ一方、日本はアメリカを守る義務はないという、現在の日米安全保障条約の「片務性」がおかしいと主張し始めている。しかし同条約の基本方針は、日本がアメリカを守れない代わりに、米軍の国内駐留を受け入れているということだ。トランプ氏の主張は同条約を根底から崩す考えであり、昨年の平和安全法制審議中の時のような騒ぎどころではない。
トランプ氏がアメリカ大統領となってこれらの主張を行動に移したならば、世界はまさにパニックに陥ってしまうだろう。本物の大統領になれば、如何に彼でも、現実路線を採らざるを得ないというのが識者の大方の見方だが、やはり何らかの影響は避けられないのではないか。我々は今のうちから、理論武装をしっかり行い、いざという時には強力に外交交渉を行う準備をするべきだ。