第三部 外交を変える 第十一章 新しいアジア政策を考える 北朝鮮への対応策 次にアジアの問題にはどう対応するか。 日本にとって地理的に近い東アジアの不安定要因は朝鮮半島と中国・台湾の問題である。 まず、朝鮮半島については、私は中長期的には比較的楽観視している。九四年夏、北朝鮮では金日成が死去した。いずれ子息の金正日氏に権力は継承されるだろうが、国力は相当弱っている。韓国が短気を起こさない限り、少しずつ緊張緩和されていくのではないだろうか。 核開発疑惑に絡んで米朝交渉が進み、軽水炉が建設されることになれば、韓国から千人単位の作業員が北に入って長期滞在する。こうなると、実質的に南北交流が始まることになる。 日朝交渉やコメ援助問題では韓国をいたく刺激したが、結果として北も正直に実情を打ち明け、韓国の顔も立てて乗り切った感じだ。いずれ韓国・北朝鮮の南北会談が再開されるだろうが、日本は韓国の立場を尊重しつつ、会談が成功するよう側面から必要な支援をしていかなければならない。 イデオロギー対立がなくなった現在、同じ民族同士が話し合いを続けていけば友好の道は開けてくる。ドイツのような急激な統一は副作用が大きいので、南北統一問題は二十一世紀の課題として徐々に融合をはかっていけばよいのでないだろうか。 ただ、先行きの見通しが暗くないからといって楽観ばかりはしていられない。 北朝鮮の核問題を扱う場合は、少なくとも声は一つにしておく必要がある。各省庁間の調整をきっちりつけ、明確な政策であたることだ。そのためには、最終的な調整を行うシニア・コーディネーターが必要となる。 そして、問題が悪くいけば、危機管理を効率的に行い、解決の方向へ向かえば、北朝鮮に何らかのインセンティブを与え、国際社会にふさわしいメンバーとして誘導していく、少なくとも、我々に迷惑を及ぼさない国にしていく必要がある。 もちろん、そのために日本が出来ることは経済協力である。単にコメの援助だけでなく、どういう経済協力が出来るかを今から考えておかなければならない。 ただ、日本が経済援助を北朝鮮に行う場合は、日朝正常化の問題とは切り離すべきだ。正常化問題は、単に経済関係の問題だけではなく、過去の清算の問題から将来の関係構築の問題も含まれる。これらの問題で、そう簡単に北朝鮮との間で話し合いがつくはずがない。 むしろ、経済協力という名のもとで経済援助の交渉を少しずつ積み上げていくべきだろう。その過程で、北朝鮮が現実的になれば、それだけ両国間に話し合いのベースができるのである。 現在の情勢がスムーズに進展し、核疑惑の問題も解決して北朝鮮が常識的な国になってくるようになると、恐らく日朝正常化を急ごうとする動きがでてくるだろう。しかし、これにも基本的に私は反対である。 日朝正常化は二国間の問題である。二国間が互いに十分、納得ずくで過去を清算し将来へ新たなレールを敷くことは望ましいことではある。しかし、これまで皆無だったのに、慌ててそれを構築することは、拙速主義と言わざるを得ない。 対北朝鮮の問題は、当面の危機を回避することが先決である。そして、危機を回避できたら、次に、朝鮮半島の非核化を制度化することだ。これを完全に固めることが日本にとっての重要な課題である。
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