第二部 経済・社会を変える 第六章 市場原理を第一にする サービス内容に合わせた運賃を アルバイト・スチュワーデス問題のとき、当時の運輸大臣は、スチュワーデスを正規採用して採算が悪くなれば国が面倒を見てやる、と発言したと伝えられる。もしこれが事実なら、かつての「親方日の丸、国鉄」の二の舞を演じようとしているとしか言いようがない。何のために国鉄を民営化し、日本航空の政府株を放出して完全民営化したのだろうか。 日本の航空業が国鉄の末期と似たような症状を呈していることに気づくべきだ。国鉄の大赤字の原因の一つは、赤字路線をつくって国鉄に無理やりに運営させてきたからだ。一九九○年代の地方空港のなかには、国鉄の赤字地方路線と同じ運命をたどるものがある。採算の合わない路線を無理に航空会社が運行させられているのである。 距離にほぼ比例する(普通)航空運賃も国鉄時代の誤りに似ている。距離に応じた運賃決定が「公平」であると言うのは、二重に誤っている。 第一に、航空サービスは、先に説明したように、飛行機に搭乗している時間が対価なのではない。需要者からみて搭乗手続きの容易さなどさまざまなサービスが含まれている。第二に、航空会社(供給者)からみても、運航コストは距離に比例しない。予約やチェックインは、距離に関係なく地上係員のコストがかかる。さらに、滑走路までの滑走時間や消費燃料なども、飛行距離とは関係なくコストがかかる。 供給者からみると、距離が長くなればなるほど距離単位のコストは低下するのである。 規制緩和になれば離島路線など採算に合わない路線が切り捨てられる、航空サービスの公共性が損なわれるという声がある。これも、全く国鉄末期時代と同じことだ。規制緩和になれば、大手の会社がサービスしなくなっても、大手の隙間に中小会社が参入して営業するようになる。 アメリカでも、規制緩和のあとコミューター航空会社のサービスがめざましく拡大した。輸送量も確実に伸びている。このようなことから、アメリカの航空規制緩和の結果は、十五年経過した現在、アメリカの専門家や一般利用者たちによって支持されている。競争の激化にともなって航空会社の淘汰が起きたが、買収の対象になった航空会社や路線も、買収した会社がリストラをして運営することが多いので、規制緩和は利用者による絶対的な支持を受けている。 規制緩和の行き過ぎを批判する声もないことはないが、小数意見である。日本で提案されようとしている程度の規制緩和では、行き過ぎとはとても言えない。 市場はダイナミックである。需要のあるところには、必ず供給者が現れる。どのような形態のサービスが生まれるかは、創業者の創意工夫に任せればよい。ある交通過疎地域で、宅急便を人間の交通手段と共用しようと考えた知恵者がいた。ところが、運輸省は人間と荷物の運搬はまかりならん、と許可しなかった。必要があれば民間からいろいろな知恵が生まれるものだ。それを実務経験のない役人が潰しているのが現状であると言いたい。 運輸関係の官僚機構は、安全性の直接のモニターに切り換えて、経済規制からいっさい手を引くべきだ。 運輸省が今なすべきことは、百八十度の発想の転換である。航空業は今や、国家事業のように運輸省が路線や運賃を決める必要はないのである。市場原理にまかせてよい。 規制緩和でどのようなことが起きるか。規制緩和の先進国アメリカやイギリス、さらにヨーロッパ大陸のいくつかの国の例を参考にして、さらに日本の空港や地理関係の特殊要因を勘案しつつ、ブループリントを描いてみよう。 運輸省は、航空会社による路線の設定、および運賃の設定を「基本的に」全く自由化すべきである。もちろん、空港や空域には供給能力の制約があるので、羽田空港や成田空港は航空会社の要望に応えられるだけの路線設置は出来ない。このような場合にも、「路線」を規制するのではなく、「発着枠」だけを規制して、その発着枠を使って、どのような運賃でどこへ飛んで行くかは自由にすべきである。 この措置だけで、大きく日本の空は変わるであろう。いろいろな創意工夫、機体にクジラやミッキーマウスを描くのではなく、真に乗客への便益になるような創意工夫がみられるようになると、私は確信している。 空港整備や空港運営の社会資本は、一般会計からの補助金を含めて大きな投資をし、「供給過剰」の状況であれば、あとは民間の創意工夫で、自由な路線決定や運賃決定をしてもらえばよい。東京についていえば、横田、厚木の返還、民間への開放、あるいは第三空港新設を真剣に考えるべき時期にきている。さらに、その間、関西新空港のみならず航空協定の許す範囲で、自由に国内線と国際線の接続が容易になるような空港の使い方を、航空会社に対して許すべきである。 今の日本にとって、「漁港」と「空港」のどちらが大切かを考えてみるがよい。日本が、大空港(ハブ空港)と競争力のある航空会社を擁して、アジアの拠点となりうるかどうかが、今、問われている。 航空会社の一層のコスト削減を可能にするために、子会社の活用をもっと自由にすべきである。日本航空も全日空も、子会社への路線割譲や子会社からの機材・乗員のリースを通じて、ある程度コスト削減を達成しているのである。子会社が親会社より強くなってもよい。肝心なのは、より厳しい競争を航空会社に課すことなのである。
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