[目次]   [前の頁へ]   [次の頁へ] 

第二部 経済・社会を変える

第六章 市場原理を第一にする

国民の五%しか対象にしない住宅政策


  住宅問題も規制緩和によって解消できる問題である。
  日本の住宅は、狭くて遠くて高い、ということが以前から言われてきたものの、未だに、解消されていない。ただし、この問題を議論するとき注意すべきことは、住宅問題は大都市の問題であるということだ。地方では遠高狭の問題は存在しない。住環境に関する限り、地方の人々は非常に豊かに暮らしている。
  したがって、住宅問題は全国一律の問題ではなく、大都市圏の問題なのである。
  どこに問題があるか。
  一つは内外価格差が非常に大きいということだ。その原因は二つある。まず、地価が非常に高いという問題がある。
  日本は人口密度が高いので地価が高いのは当然だ、という常識がある。ところがシンガポールをみると、こちらは都市国家で人口密度は日本よりはるかに高い。それでも、非常に豊かな住生活を送っている。大きな公園の中に住宅が建っている。道路も広くて整備されている。空気はきれいで環境もよい。
  これは何を物語っているかというと、土地問題は土地面積の問題なのではなく、土地の使い方の問題である、ということだ。日本はシンガポールに比べると国土面積は非常に広い。ところが、シンガポールや香港から帰国してみると、成田空港から都心までの建物の高さが非常に低いのが印象に残る。都心に近づいても低層住宅が密集しているのである。それは、異常なほどだと私は思う。
  これだけをみても、地価が高いのは都市計画や土地の使い方の問題であって、人口密度の問題ではないことを示している。
  そのうえ、日本の建築費は非常に高いのである。アメリカなどに比べると二倍はするのではないだろうか。この二つの要因が日本の住宅費を高くしている。
  第二の問題は、住宅の質の問題である。住宅に関しては、量の確保はすでに十分である。この点は、かなり改善されたと思う。次に質の向上ということで、一人当たりの居住面積も改善されつつある。
  しかし、ここでいう質の問題とは、高齢化社会への対応である。老人が住み易い住宅になっているかどうか。建物の構造が老齢者がつまずき易い構造になっていたり、あるいは高齢者と若い世代が同居できるような構造にはなっていない。高齢化という時代の流れに住宅が対応できていないのである。
  さらに、健康な生活という視点から住宅を考える必要がある。一日の半分以上、少なくとも三分の一以上は自宅で生活しており、健康はそこでつくられている。極端にいえば、われわれの健康の源は自分の住宅かも知れない。
  ところが、このような発想から住宅はつくられていない。とにかく住めればよいということで、ただ面積だけを広げてきたのが日本の住宅だった。
  このような課題に対して、これまでの住宅政策はどうだったか。
  政府の住宅政策は三本の柱からなっている。一つは国による公団住宅、地方自治体が行う公営住宅、そして、持ち家を促進するための住宅金融公庫による低利融資である。これが政府の住宅政策のすべてであった。
  では、これで住宅政策になっているかというと、私は、日本に住宅政策はなきに等しいと思う。なぜかというと、住宅公団や公営住宅が供給している住宅は、年間わずか七万戸ほどにすぎない。住宅着工全体に占める割合は床面積換算で全体の三〜五パーセントに過ぎないのである。ということは、国民の五パーセントしか対象にしていないということだ。
  もちろん、公庫融資は全体の三割の人々が恩恵を受けている。バブル崩壊のあとは景気を刺激するために公庫融資が積極的になされているのでマイホーム購入者の半分以上が融資を受けているようだが、現在は異常な時期であって、通常は三割である。
  しかし、考えてみると公庫融資は住宅を建てる人には恩恵を与えることになろうが、住宅を建てない人には何の意味もない。しかも、融資だけなら民間銀行による住宅ローンで十分なのであって、むしろ、民業を圧迫しているともいえる。これを政府による恩恵といえるかどうか疑問である。
  もちろん、金利が多少は安いということはあるだろう。しかし、金持ちが住宅を建てるのを支援するのが、どれほどの意味があるだろうか。そういう人々は、放っていても住宅を買うだろう。むしろ、政府がやるべき住宅政策は、住宅を買えない人々をどうやって支援するかということだ。それこそ本当の住宅政策であろう。
  そういう意味で、私は、政府の住宅政策はなきに等しいと思うのである。

[目次]   [前の頁へ]   [次の頁へ] 

HOME今後の予定はじめのOpinion政策提言本・エッセイ||はじめ倶楽部経歴趣味Linkはじめに一言

Copyright(c)1996-2003 Hajime Funada. All rights reserved.