第二部 経済・社会を変える 第四章 「国家総動員体制」からの脱却 アメリカとアジアに挟撃される日本 経済企画庁長官として私が初入閣したのは平成四年十二月だった。その頃はすでに景気の低迷が久しく続いていた。その年の夏には株価が一万五千円を割り込み、「経済に強い宮沢首相が一体何をやっている」と経済界をはじめ、国民から不満の声が出始めていた。 首相官邸に呼ばれ、宮沢首相は「こういう時期にご苦労ですが、マクロ経済の運営をお願いします」と言われたとき、私は、これは大変だと思った。経済については専門家ではないので、連日の役所におけるレクチャーは少々ハードに感じたが、その結果、日本経済の姿がある程度よく見えるようになった。 私は、就任直後、自分自身を鼓舞するため、景気回復の願をかける思いで禁煙を始めた。学生時代からの習慣を止めるのは苦痛だったが、あれから約三年、いまだにタバコを口にしていない。 平成五年六月に、私は経企庁長官として「景気底入れ宣言」をしたのは、思い切った補正予算を組むなどの効果が少しずつ数字に表れたからであった。だが、その足どりは極めて弱く、現在では、経済のファンダメンタルズを越えた急激な円高などによって、景気失速あるいは下ぶれの危険さえある。これは、明らかに従来の景気循環からはずれ、経済構造上の問題といえるのだ。 戦後五十年、目前に二十一世紀を迎えようとして、日本経済はいま大きな転換点にあるわけである。すなわち、日本経済には大きな構造変革が求められている。次の世紀まで経済の活力を維持しながら、豊かな高齢化社会を構築するには、日本経済の構造改革が必要なのである。 現在の日本経済はどのような状況にあるのか。 東アジア諸国、東南アジア諸国の奇跡的ともいえる経済発展によって、日本のお家芸と考えられてきたエレクトロニクスや機械製品などで、日本の産業は厳しい競争を強いられている。自動車でさえ、世界の市場を席巻するという状況からはかけ離れた状況にある。もちろん、アジア諸国の発展は喜ぶべきことであって、これらの諸国から日本は多くの恩恵を受けることができる。 しかし、アジアの発展を前提として考えた場合、日本は新たなリーディング産業を探していなければならない。そうであってこそ、日本経済は繁栄を続けていられるわけであり、アジア諸国との共存、共栄も可能になるのである。 そういった観点から、コンピュータ、通信、高度な技術を要する金融業、バイオ、医療関連産業など、次の日本のリーディング産業になるべき産業候補を挙げることができる。しかし、これらのどの分野においても、現状のままでは日本がアメリカのもつ高い競争力の水準まで到達する見通しは立てられないのである。むしろ、アメリカに水をあけられている、という感じさえする。 このように、現在の日本経済はアジアとアメリカの両側から挟撃されており、将来の産業デザインを描けないでいる。 なぜ、このような状況に追い込まれているのだろうか。 実は、日本が進むべき道は、ハイテク産業や金融情報サービスなどのウエイトを高めていくことであるのは、かなり前からわかっていたことである。にもかかわらず、これらの新しい分野が発展してこなかったのは、多くの分野で自由な企業活動を妨げる規制があるからだ。また、そういう産業を支える重要な要素である教育研究などの分野で、伝統的な仕組みが新しい時代にふさわしい人材の供給を困難にしている。
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