次に、経済の問題にちょっと触れたいと思います。3月、年度末という事で株価がどの位になるか非常に懸念されておりました。株価が暴落する自体までは避けられましたけれども、7900円台という事で期末の終値としては21年ぶりの安値になってしまいました。このことによって各企業の資産のポジションは一段と悪い状況で決算を迎えてしまいました。このことが、新年度からの企業活動に悪い影響を与える事は必至です。新たな設備投資がし難いという状況が生まれ、景気の足を引っ張る。3月危機は一応乗り切ったものの、近い将来危機があるかもしれない事を十分、警戒しながら、適時適切な経済対策を打っていかなければいけないと思っています。特に銀行の持ち株はまだまだ多くあります。持ち株の資産価値も非常に下がってしまっております。自己資本比率もその結果として下がってしまう、状況にあります。いくつかの銀行では国の公的資金が投入されました。現在は優先株を国が持っていますが、いずれ優先株は、配当がない場合には普通株に転換しなければいけないという法律上の問題があります。普通株に転換されれば国に議決権が生じて、銀行が国有化をされる可能性があります。でも私は、銀行そのものが潰れるよりも国有化を選択をすることのほうがまだましであると考えております。それから日銀の対応でございます。先日就任された福井日銀新総裁への期待はとても高いものがあります。なぜ高いかと言うと、前の速水総裁には大変申し訳ないのですが、速見総裁時代には日銀の独立性、独自性がやや強調され過ぎて、政府と一体となった金融政策がとりにくい状態にあったという事でした。しかし、福井新総裁は就任早々から、「政府と十分に相談させて頂きながら、日銀としての独自性を発揮していきます。」という就任の時のお話でした。勿論、日銀の独自性はおっしゃっておりますが、あくまでも重点は前半のほうでございます。明らかにこれは速見日銀とは違った状況になってきたと思っております。ただ、私はあまり、日銀の行う金融政策にあまり大きな期待をかけ過ぎないように、そして政府としては金融以外の政策を決して怠らないようにしなければいけないと思います。日銀の政策もその手足が縛られつつあります。金融緩和、より一層の緩和と言いましても、この低金利状態ですから長期金利を下げるといってもなかなか出来る相談ではありません。イラク戦争もあります。そして、日本の先行きが非常に不透明である、そういう時には長期金利を下げるのはなかなか難しい状態になってきております。それから日銀が市場において株を買い取るという事もおのずから限界がございます。7900円〜8000円台という株価を8000円〜9000円するだけの力は、残念ではありますけれども現在の日銀にもないという状況にあると思います。ですから福井日銀にもあまり過大な期待はしない方がいい。しかしながら福井さんには是非政府と連携をとって、その同じ気持ちで金融政策をやってもらう、その事が当面の景気対策としては非常に大事だと思っております。
もう1つ景気対策の中で考えなければいけないのは、現在の構造改革路線をどのように進めていくのかという事であると思います。構造改革は確かに小泉さんになってから、かなりそのテンポが早まりました。でも、その多くは、実はその前の前の小渕政権から始まっているものがほとんどでございます。あの小渕政権当時を思い出していただきたいのですけれども、今の経済状況から比べると、かなりいい状況になっておりました。株価も多分12000円以上あったはずです。そういう状態の中での構造改革をやろうという、スタートの時点でした。ところが、その途中で経済そのもののパフォーマンスが非常に衰えてしまったということです。確かに日本経済の将来を考えた場合には、この構造改革路線は方向としては決して間違ってはいないし、これは進めるべきだと私自身も思っておりますけれども、しかし構造改革を首尾良く行うには、やはり現状の足元の日本経済の体力がある程度ないと、なかなかやりこなせない、と思います。経済の体力とはいったい何か、それは各企業が相当なリストラをしても立ち直れるだけの体力だと思います。そしてスリム化した企業が何か新しい分野に自分たちの生きる道を見つける、つまり新産業が新しく作れるだけの体力を持っている時でないと、なかなか難しいと思っています。私は構造改革路線を180度転換しろとは言いません。しかし、それをやりながら財政的な対応もある程度はやるべきではないかと言うのが私の考えです。自民党の守旧派の皆さんが、この財政出動をやはり言い始めています。私はマスコミの皆さんに気をつけて報道して欲しいのですが、「財政出動を唱えている人達は全部守旧派である。彼らは昔の人々であって排除しなければいけない」と言わんばかりの報道をやっていては、「角を矯(た)めて牛を殺すの幣」を犯すことになると思っています。開明的な人間でも、構造改革は大事だけれども、ここでやはり一段の財政出動をやって、日本経済の体力をある程度回復させなければいけないと真面目に考えている人も大勢いるという事を是非、報道して欲しいのです。ただ、マスコミの言う言い分にも無理からぬ部分があります。それは、財政出動とりわけ公共事業の出し方は、やはりどうしてもバラマキに終始してしまいました。そうとう、小泉さんが頑張ってシェアーの見直しもいたしました。昔は見直しはするといっても、公共事業の中身、規模、ほとんど変わらなかったのです。どんなにやっても年間で1%変わるか変わらないか、そういう状況でした。それがようやく2%、3%、ものによっては5%増えたり減ったりという事でだいぶ変わってまいりました。より国民生活に密着をした公共事業に集中をする、あるいは景気をより刺激する方向に公共事業を変えていくという努力はしてきております。でも、それでもまだ十分ではありません。もっともっと私は公共事業の中身を変えるべきだ、ターゲットを絞るべきだと思います。
そのターゲットはやはり土地だと思います。地価を上げるという目的のために公共事業をいくつかの分野に集中する、必要があると思っています。ほかの分野からは不公平であるという声が出るでしょうが、出るくらいに偏った出し方をしないと土地政策や地価対策というものはなかなか出来ないと思います。聞き分けのいい公共事業というのでは絶対に地価を上げることにはなりません。具体的には都市部での再開発事業、いわゆる「都市再生」という議論をもっともっと進めるべきだと思います。都市と農村の綱引きは永遠の課題ですが、いつもその綱引きで喧嘩両成敗。結果として公共事業がバラマキという事になります。そこは小泉さん、総理大臣のリーダーシップを発揮するべきです。都市部に公共事業の多くを集中をさせる、とりわけ商業地の地価が極端に下がっている事が大きく足を引っ張っている部分です。不良債権をどんどん作っているのはまさにこの部分にあるわけですから、これを解消するためにはどうしても公共事業を都市に集中する必要があると思います。小泉さんは現在、まだまだ構造改革路線を突っ走っている状況です。「政策の転換」でなく「政策の強化」であるということで、多少積極財政派と妥協しようとしております。でも、この妥協というのはもっと私は大胆であっても良いと思っています。もはや、そういう時期に来たのではないかと思っております。