もう1つ、アメリカが最近言い始めていることがあります。イラク戦争というのは、アメリカの個別自衛権、つまりアメリカ本土や海外にいるアメリカ人の命や財産を守るための自衛戦争である、という事です。ただこれは、論理の飛躍があるのではないかと私は思っています。確かにイラク周辺、あるいは中東地域にいるアメリカ人は危機にさらされているのかもしれません。それから、9・11テロで示されたように、フセイン政権がアルカイダを支援し、アルカイダがテロをやるかもしれません。テロを支援するという事を通じてイラクがアメリカ人やアメリカ本土を攻撃するという考え方も成り立たなくは無いと思います。しかし、オーソドックスに考える個別自衛権の考え方からすると、アメリカが個別自衛権という理屈でイラク戦争の継続をするのは、ちょっと論理の飛躍があるのではないかと思っております。ですから、アメリカもイギリスもやはり戦争の長期化を抑える事と同時に、戦争の目的はあくまでイラクの大量破壊兵器を排除するという事であり、そのためには、それを温存しているフセイン政権を打倒する事に目的を集中するほうがいいのではないか。そうでないと、国際世論もかなり難しい状況になるという事を考えます。また、戦争が長期化するともう1つ問題が起こります。それはマスコミ、マスメディアの力が強くなるという事です。やはりイラクは非常にマスコミの使い方がうまいと思います。特にアメリカ、イギリスが、空爆をしている重要な施設、軍事施設などの周辺にフセイン政権はイラクの人々を住まわせている。ピンポイントということで出来るだけアメリカが民間人には犠牲者を出さないように空爆をしても、結果として周辺に住む民間人を殺害してしまうという構図をあえて作り上げようとしているかのようです。そのことによってアメリカ、イギリスの戦争がいかに理不尽をマスコミを通じて国際世論に訴える。この目論みは半ば成功しているものと思っております。この状態が長く続くとやはり相当アメリカ、イギリスに対する国際世論は非常に厳しいものになるということでありまして、アメリカもイギリスもきちんと説明をしなければいけない、と思っております。
そういう中で日本の役割や立場はどうしたらいいのかということを、この項目の最後に申し上げてみたいと思います。日本政府は戦争が始まってすぐですが、アメリカを支持するという、間髪を入れない小泉総理の発表がありました。これは、決して間違っていないと思います。アメリカ支持は確かにこれからの日米同盟関係を維持する事を考えた場合には、やむを得ざる選択であると思います。また、北朝鮮の現状を考えますと、アメリカ支持という事は私は非常に国益的に適(かな)ったことであると思っております。ただこれを正面から話をするというのは、非常に危険であるというふうに思っております。私はあくまで、日本政府がアメリカ、イギリスを支持するのは、先ほども申し上げたように、大量破壊兵器を根絶する、そのためにはフセイン政権を倒さなければならない、という理由を表向き言うべきであって、日米同盟関係の維持というのはその結果としてもたらされる事だと思っております。それともう1つ日本の役割として考えられる事がいろいろあるかと思いますけれども、ただこの前の湾岸戦争には言うまでも無く、国連決議がくっついておりました。確かに武力行使をしたのは国連軍ではなくて、多国籍軍でしたから、日本としては後方支援もやれないという結論でした。今回はその国連決議すらない状況の下です。したがって、せいぜいやれる事は、戦争が終わった後の難民の救済、人道的な措置、そして戦後復興に向けてのハード・ソフト両面での支援という事に限定されると思っております。ソフトの問題では民主化のために、どのような手順で選挙をやっていったらいいのか、日本はノウハウを持っております。それからハード面。すでに日本の商社がイラクのいろいろな建造物を建築しております。そういう観点から見ると破壊された建物をもう一回修繕する、日本の力が大きな威力をもってくると思っております。戦後復興においては日本が果たす役割は非常に大きいと思います。国連の中でいろいろな話し合いが行われると思いますけれども、ぜひそういう時には日本がリーダーシップを発揮して対応する必要があると思っています。アメリカに親しく、そしてこれまでのイラクにも比較的親しかったというのは世界の中でも日本以外あまり考えられないと思います。非常に珍しい立場にいると思います。ですから今回アメリカの支持はいたしましたけれども、過去における日本とイラクとの人脈は依然として生きていると思いますので、ぜひ戦後復興における国連あるいは国際社会での取り組みにおいてぜひ日本政府はリーダーシップを発揮すべき事を強く申し上げておきたいのです。
私は、湾岸戦争の時には当時外交部会長をしていましたが、戦後復興で何かやれる事はないかと、自民党の中で模索をしたことがございました。アメリカにも飛びまして、関係者にもどうしたらいいんだろうかとお話を聞いたことがございます。実は、今日皆様方にお配りした、阿川尚之さんの『海の友情』の中の〜再び海を渡る掃海艇〜という部分にも触れられていますが、掃海艇をなんとか戦後のペルシャ湾に派遣して、遺棄された機雷を除去する事によって、湾岸地域の戦後復興に一役を担いたいと、米軍関係者に申し上げました。朝鮮戦争当時、日本の掃海部隊が掃海作業をして、アメリカ軍(国連軍)の上陸を助けたという隠された秘話があります。日本の掃海技術というのは戦前からずっと優秀でした。それをやはり湾岸戦争のときにも生かすべきである、というお話を申し上げました。幸い多くのアメリカの政治家の方々、そしてアメリカ海軍の皆さんもよく理解をしてくれて、そして湾岸戦争後に3隻の掃海艇を現地に派遣し、確か34個の機雷を処理できたという事があったのでございます。あのときを考えると、今、もし私もバッジを着けていればまたアメリカに飛んだり、あるいは国内においてもいろんな事をやってみたいのですが、今それが出来ない事を大変、歯痒く(はがゆく)思っているわけです。今申し上げているようなことをぜひ今の政治家の皆さんにお願いしたい、と思っております。