日本の将来ビジョンを示せ!
次の注文は、多少話が大きくなります。いわば小泉改革はあくまで手段であり、改革によってバブル後の「失われた10年」を克服してどういう日本を築くのか、どういう日本にしたいのかといった青写真は示されていません。私自身を含めて政治家全般が、明確な目標を提示できておりません。この部分については、政党も、政治家個人も勉強する必要があります。今は構造改革自体が目的となってしまい、これを進めれば日本は安泰だとしか考えられておらず、大変憂慮すべきことと思います。小泉改革には明確なビジョンが必要なのであります。また、そういったビジョンを示せないがゆえに、痛みだけが目立ってしまい、抵抗勢力を増長する結果となってしまうのです。
それでは、船田はどういった将来像を持っているのかといっても、いま、すべてを語ることはできません。ただ、1、2点だけ申し上げておきます。私は、日本という国が今まで尊敬されてきた面があると思います。太平洋戦争で敗北し、廃墟と化した国土から高度経済成長を果たしたとこと。しかも、それをアジアの中から果たしたことは、アジアもしくは他の先進地域から驚異の目で見られ、それゆえ、日本の国に対する信用や尊敬を勝ち取ってきました。それが現在、日本の経済の落ち込みとともに、かつての尊敬は失われつつあります。私は、この尊敬をもう一回勝ち取りたい。世界から尊敬される国に、日本をもう一度戻したいと思うのです。ただ、それは過去にたどった道のように、がむしゃらに繁栄を達成することではありません。もうちょっと違った角度で、尊敬を得られる国にしたい。
高度成長時代はみんな働き蜂で、みんな自分を捨て、みんな同じ方向を向いて全力を尽くしていました。しかし今度は、自分の考えをしっかり持っている、私はこう思うという自己主張がはっきり出来る社会。人々の満足度が最大限に生かされ、また個々の努力が相応に報われるという社会を、私は作っていきたい。経済分野だけでなく、文化や科学技術においても、世界の人々が日本で学びたい、日本で生活したいと思ってもらえるような社会を、作りたいと考えております。こういった青写真を、小泉さんはじめ政治家がどんどん発表すべきです。結論が同じである必要はないのです。それが、また集約され活性化につながっていくのです。あえて小泉構造改革において是非実行していただきたいことを、何点か言わせていただきました。
ODAは日本の宝!
次に、小泉さんが言ってないことで、是非やるべきことを述べたいと思います。
その一つが、先ほど、「世界から尊敬される国に」と言いましたが、ODA(政府開発援助)が来年度予算の概算要求で、10%減らされる点です。概算要求で10%減ということは、本予算ではもっと減らされる可能性がありまして、私はそれに大変危機感を持っています。ODAを所管する役所は、外務省を筆頭に、財務省、経済産業省、農林水産省、文部科学省など多岐にわたります。最も金額の多い外務省では、ご承知のとおり、様々な不祥事が次々と明るみに出ており、大変残念なことです。個人の犯罪というよりも、外務省全体の慣例やシステムがよくなかった、と思わざるを得ません。
田中真紀子外務大臣には、外務省改革をどんどん進めて欲しいし、また、それを期待されて大臣に就任されたことと思います。しかしながら、田中大臣にあえて苦言を呈しますが、外交は一日足りとも休めないし、時差の関係も含めて一時足りとも気を緩めることはできません。もちろん、昨日のようなテロが起きることもあるのです。そういう中で、外交機能を弱めるようなことはしてはいけないと思います。田中大臣には人事問題にかまけすぎているところがあるため、日常の外交に関心を向けていただかないと、本当に日本の外交はおかしくなってしまいます。その点、バランスを持って冷静に対処していただきたい。
もう一つは、人事の際に絶対私情を入れてはいけないということであります。私も大臣を経験しましたが、役所の人事は政治家が入り込みにくいところがあります。もちろん、事務次官に全部任せるわけには行きませんが、役人が決めざるを得ない部分も多いのです。田中大臣はお辞めになった川島事務次官が気に入らなかったようで、「あなたには任せられない」といって混乱しました。また、次の事務次官を、野上さんにするのか加藤さん(現駐米大使)にするかで、自分の好き嫌いを持ちこもうとされました。政治家として、人事に手を挟む時には、よほど覚悟して、また絶対に私情を持ち込んではいけないし、そうでなければそれは恨みになります。信頼関係がゼロになり、その大臣はどんな役所においても仕事ができなくなります。是非、田中大臣には私情をこらえていただきたいと思いますし、不祥事の改革においてはリーダーシップをとっていただきたい。
話を戻します。ODAの減額については、田中大臣が人事問題に没頭し、また外交機密費の減額に関心がいっているところ、財務省の要求そのままに減額されてしまったように後から聞いております。緊縮財政なので増やせとは言いませんが、私はこう言う時期だからこそ、減らすべきではないと思います。もちろん、ODAについては批判があるのも事実です。例えば、中国には巨額の円借款をしております。もちろん、お金に色はついていませんが、中国は軍事力強化に大変なお金を使っております。それを国民生活の安定や向上に回せば、円借款もそこまで必要ないのでは、と本来は言うべきです。教科書問題で弱みを握られているとはいえ、言うべきことは言うべきだと思います。