日本にも「明日があるさ」
それでは、正式な講義に入りたいと思います。
今日は、現在の日本の状況、そして本当に小泉さんの改革がうまくいくのか、あるいはどこに重点を置くべきなのかなど、日頃私の考えていることをお話させていただきます。
テロの話ではないですが、今から18年前の昭和60年、日航ジャンボ機が墜落して多くの貴重な人命が奪われたわけでありますが、そのお一人に「坂本 九」さんという往年の歌手がおりました。子供の頃「上を向いて歩こう」など、いろんな歌が流行ったわけでありますが、そのリバイバルがいま結構受けております。「明日があるさ」という歌です。最初はコーヒー飲料のCMでしたが、それが更に、リバイバルとして若者の間で広く歌われています。何故いま、この歌が流行るのかなと考えてみましたが、この日本の状況ではどうも明日がないんじゃないかと、みんな意気消沈しているわけです。そういう中ですから、「明日があるさ」という前向きな歌が、若い人を含めて日本国民に受ける原因になっているのではないでしょうか。
このリバイバルにかこつける訳ではございませんが、私は今日の大きなテーマとして、まだまだ日本にも「明日はあるさ」と、こんなトーンでお話をしたいと思います。ただ、何もしないで、また今までやってきたことと同じことをやっては、決して「明日はあるさ」とは言えないと思っております。やるべきことをきちんとやって、それがある程度うまくいった先には当然「明日はある」。しかしそうでなければ、日本の明日はないということです。それでは、やるべきことは一体何なのか、その多くは小泉さんの言う改革の中に散りばめられています。ただ、改革を進めていく中で注意すべき点を、これからいくつか申し上げたいと思います。また、小泉さんは言っていないが、日本に「明日がある」ためにやるべきことを、2、3点お話をしたいと思います。
構造改革は痛みをともなう
まず、皆様ご承知のように小泉構造改革は、「行くも地獄、行かぬも地獄」、それならば前に進んだほうがいいじゃないかという言葉も聞かれます。私は、小泉改革は「地獄」であると思っております。地獄であることには間違いありません。現在はまだ国民ひとりひとりの生活に直接の苦しみや我慢が、失業者以外には国民全体には及んでおりません。しかし、これから改革を進めていくとなると、当然今の規模ではなく、国民の相当数に痛みや苦しみを我慢していただくことが必要です。ただ、その時点になっても、なお国民の皆様が、「小泉、頑張れ」と声を出しつづけてくれるかが、小泉改革が進む中での試金石だと思います。
具体的な我慢の内容ですが、まずは財政構造改革あるいは財政再建。これは待ったなしということで進めていくしかないと思います。現在、小泉さんも30兆円という赤字国債発行額は、越えてはいけないと強く主張しておりますが、自民党内あるいは業界の中にも、財政を出動して補正予算を組み、カンフル剤を打つべきだとの意見も日ごとに強まっております。臨時国会中にも更に強まるでしょう。でも、これまでバブル経済が崩壊してから何回予算編成をしたか、何回補正予算で財政出動してきたかを考えると、大変膨大な金額がつぎ込まれているわけです。もちろん、それで景気の下ブレを支えている効果はありますが、しかしその効果もここ10年来波及効果が限定的になっております。このまま30兆円を越え、赤字国債を雪ダルマ式に増やしていくことは、今後の借金の返済や利払いを考えますと、私は悲観的にならざるを得ません。30兆円を越えることは心を鬼にして守っていくべきだと思います。30兆円の枠を守ることは、小泉構造改革の要です。
そして、同時に行うべきは不良債権の処理です。特に、銀行の不良債権処理は急務です。8月27日に、柳沢金融担当大臣が発表した、大手15行合わせた不良債権の規模は2001年3月末で17兆円。これを処理していって、2005年には10兆円に、2008年には7兆円に減らしたいと、達成可能なスケジュールを発表しております。しかし、この処理の額とスピードは、小泉さんの「3年集中処理プラン」と比較すると、だいぶ後退しております。それでは遅すぎると、株価が下がり、市場は期待はずれとのシグナルを出したと思います。柳沢プランでは倒産や失業をかなり抑制できますが、株式市場や外国資本は、それでは遅いと判断しています。もう一度柳沢プランを練り直し、より早いプランを出し直すことが必要であると思います。小泉構造改革は、方向も大切ですが、スピードも大切だということの典型です。