はじめに 阪神大震災から一ヵ月の二月中旬、私は、神戸の街角に立ってみた。木造家屋がそっくり 道路に倒れ込んでいたり、跡形もなく倒壊していたり、あるいは、堅固なはずのビルの中 階層だけが見事に潰されていた。安全と思い込んでいた日本の都市がこれほど脆いものと は、にわかには信じられない光景だった。 現地を訪れたのは、結成間もない新進党学生部の代表2名を連れて、ボランティア活動を どう進めるか、その下見をするためであった。そのころは、すでにライフラインがほぼ復 旧しており、被災者の生活に直接かかわるボランティア活動に入り込む余地はなかった。しかし、その多くが避難所となっていた学校では、子供たちが、親や友達とも遊べないで 寂しそうにしていた。よし、子供たちの遊び相手になり、勉強もみてあげよう。私たちは そう決めて帰京し、ボランティアをしてくれる学生を募った。 当初、私は不安だった。果たして何人の学生諸君が貴重な春休みを返上してくれるだろう か、たとえ参加しても途中で投げ出してしまうのではないか。しかし、この心配は全くの 杞憂だった。約一ヵ月で述べ五十名の学生たちが参加してくれ、中には、まるまる一ヵ月 間現地にとどまってくれた者もいた。「被災地で何かをやらなくてはと思っていたが、本 当によい機会を与えられました」と逆に感謝してくれる学生さえいたのである。 活動終了間際に再び現地入りし、学生諸君の逞しい笑顔に接したとき、私は、政治家とし て、何か大きなことを学んだような気がした。 いま、議会制民主主義の危機が叫ばれている。しかし、一方ではこれほど逞しく、意欲的 で、献身的な若者が多いのである。どこかにボタンの掛け違いがあるのではないだろうか。 わが国の政治状況は、今、極めていびつである。われわれが二年前に自民党を飛び出すこ とによって崩壊させたはずの五十五年体制が、自・社・さ三党連立という奇妙な組み合わ せによって息を吹きかえした。もちろん、それで国民の期待に応える政治を行うなら問題 はない。ところが、もともと基本政策が水と油の政党同士が、単なる政権獲得のために野 合したにすぎないため、なに一つ明確な意志をもった政策決定がなされないのである。 対する新進党も、組織作りが優先され、基本政策をすり合わせる時間的余裕が得られてい ない。社会党やさきがけなどが目指している第三極づくりにいたっては、最初から政治の 主役になることをあきらめ、小さく生き残ることにのみ執着している。 先の統一地方選挙や参院選挙では投票所に行くのを拒否したり、青島・横山両知事を誕生 させたことで注目された「無党派層」をどう解釈するか。彼らは決して政治に無関心な人 々ではない、と私は思う。彼らは消費税について社会党に裏切られ、細川連立政権に対す る大きな期待も裏切られ、政党や政治に嫌気がさしているにすぎない。不満を爆発させる 相手がもう既成政党に見当たらないのである。 なぜ、そうなのか。 既成政党の多くが国民を無視して、党利党略に走っているからだ。もちろん、政党である かぎり、あるいは政治家であるかぎり、政権をとって自分たちの政策実現を目指すのは当 然だ。政治の主役であろうとすることは、政党および政治家の本能であるとさえいえる。 しかしながら、現在の既成政党、とくに連立与党は、目的と手段が逆になっている。政権 をとることは政策実現の手段であるはずなのに、政権維持が目的そのものとなり、各政党 の政策構想は物置に放り込まれてホコリまみれなのである。こういう政治を誰が信用する だろうか。 私は、一政治家として、神戸で活躍していた若者たちに申し訳ないと思う。彼らが政治に 目を向け、自分たちの国や社会や町づくりに活動するなら、戦後五十年目を迎えての経済 的、社会的難局を十分に乗り越えることが出来るだろう。しかし、実際には、彼らをます ます政治から追いやっている。 この流れを逆転するにはどうすればよいか。 当然のことながら、政治や行政は政治家や役人のものではない。国民一人ひとりのもので ある。この当然の認識を国民一人ひとりが確認し、それぞれの立場から何らかの形で政治 や行政にかかわるなら、理想的な民主主義の実現につながるのではないだろうか。 そのために、私は、どうすればよいのか。 本書は、そうした模索の軌跡である。国民が主人公である政治をいかにして実現するか、 国民が自分の人生を自分の責任で選択し、自分の責任で社会を構築するには、政治や行政 はどうあるべきなのか。国民が主人公の政治は決して生易しいものではない。国民自身に こそ厳しさが求められる。しかし、今や日本を救えるのは政治家や役人ではない。国民一 人ひとりなのである。 したがって本書は、舌触りの良い公約集ではない。一緒に考え、一緒に行動しようという 呼びかけの書である。タイトルには、そういう願いを込めている。 一九九五年十月 船田 元
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