第二部 経済・社会を変える 第八章 活力ある社会をつくる 老人介護の財源は消費税で ところで、老人介護サービスの公的部門が必要だとすれば、その財源が当然問題となる。この財源のために政府が「打ち出の小槌」を持っているというように認識するなら、それは大きな間違いだ。政府がそういうものを持っていないとなれば、当然、国民が負担の増加を受け入れなければならない。 私は、国民の負担をもっと増やせというのではない。むしろ、小さな政府をめざし、国民の負担を極力抑えるべきであると考えている。 しかし、老人介護を含む社会福祉政策の今後の増加に相当する部分は、行政改革によって財政支出を抑え、余った分を回すのは当然であろう。また、第一部で述べた民間ボランティア活動の活用によって結果的に財政負担の軽減をはかることも必要だ。それでも不足する部分は国民が「負担」を受け入れなければならない。 その負担分はどのような形でなされるべきだろうか。もし、一部で議論されているように国民全員が公的な保険に加入するのも一つの方法であろう。この場合は、国民全員が加入して保険料を支払うのであるから、実質的には、国民の税金に依拠する場合と同じことである。 では、実質的に同じだからどちらでもよいかというと、そうではない。 保険の場合は、一人当たりの保険料は、所得に応じて高低をつけるとしても、原則として一律となるはずだ。皆が等しく要介護となる危険性をもっているからだ。すべての人が介護が必要となるわけではないが、その確率については大きな個人差はない。この考え方は生命保険や医療保険と同じである。これらの保険は、特別に危険な職業についている場合のほかは、原則的に一律の負担になっている。 しかしながら、最近のアンケート調査でも心配されているように、公的な介護保険だけですべての要介護老人が、余分な自己負担をすることもなく十分なサービスを受けられるだろうか。 私は、長年働いて不幸にも寝たきりになったり痴呆になった老人は、誰でも平等に十分な介護を受ける権利があると思う。したがって、十分なサービスのためには余分な自己負担が必要になるような状況は避けるべきだ。その点、政府が責任をもって全ての老人介護を十分に支援する体制にしておけば、このような問題は生じない。 したがって私は、老人介護の財源は保険ではなく税金に求めるのがよいと思うのである。 その財源だが、所得税から負担すべきであるとの議論がある。しかし、所得税は先に述べたように人的投資の収益に対する課税である。能力を高めるために時間とカネを膨大に投資して努力した人ほど高い税金を支払っている。その税金を弱者救済に当てるのは、所得の再配分としての意味が大きい。 しかし、現在でもすでにいろいろな形で所得の再配分はなされている。したがって、老人介護に必要な負担増の分は、さらなる所得の再配分より、広くあまねく安定的な財源となりうる消費税がよいと思う。 誰でも何らかの消費をしている。そのうちの一部を現在の老人のために回すのである。そうやって納入している当人も、いつかは恩恵を受けることになるかもしれない。 しかも、消費税であれば、公的保険と違って負担は機械的に一律とはならない。金持ちで贅沢な消費生活をする人は多くを負担し、つつましく生活している人々は、わずかの負担となる。多く消費するか少ない消費に抑えるか、それはそれぞれの考えであり、所得の範囲内で自由に決められる。消費した分だけ多く負担するのは、極めて合理的ではないだろうか。 もう一つの問題は少子化の問題である。この問題は、高齢化の問題と併せて論じられることが多い。これは高齢化の原因として少子化の傾向があり、また、高齢化後に家庭による老人の扶養や介護を難しくさせる要因でもあるからだ。 しかし、少子化傾向自体が、弱者に対する社会の扱いの問題を含んでいる。 なぜ最近、出生率が予想以上に低下し、少子化の動きが強まっているのか。それは、女性の社会進出と無関係ではない。住宅事情の悪さという説もあるが、過去、趨勢的に住宅事情はよくなっている。にもかかわらず、少子化の傾向が強くなっている。 とすると、社会的に子どもを持った女性が働きにくい状況のもとで、女性が高学歴化し、社会に進出していることが、出生率の低下の最も重要な要因だといえる。そういう意味で出生率の低下は、子どもを持った女性という弱者の問題を浮き彫りにしているといえる。昨今の四年制の大卒女性の就職難と通じる問題だ。 この問題については、企業のトップや人事担当者や男性全般の意識を変えるという大変な問題があるが、政治の面からも、手当が必要だろう。これも女性が平等の条件で職場に参加し、場合によっては競争していけるようにする、ということであるから、「機会の平等」をめざした政策ということができる。 厚生省も「エンゼル・プラン・プレリュード」などと銘打って、子育て支援基金、各種の保育サービスの充実などをめざしているが、さらに、育児と仕事の両立を多面的、かつ大胆に支援していく必要がある。
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